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日経コンピュータの書籍『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』より、デジタル政府20年の歴史を解説した第2章の一部を再録しました。本記事は第4回です。

 なぜ、これらの「理想と現実の乖離(かいり)」が発生したのか。最適化計画などの策定経緯を知るITベンダー出身のCIO補佐官は「計画を主導した政治家や官僚にとって、本来の狙いはレガシーシステムのオープン化によるITコストの削減にあり、業務プロセス改革は二の次だった」と振り返る。

 「政治家も官僚も、EA(エンタープライズアーキテクチャー)に基づく業務プロセス改革を省庁自ら手掛けるのは無理だと最初から諦めていた。このため、EAという言葉だけは残したものの、制度上の枠組みやIT人材は用意しなかった」(同)。

 この結果、政府は業務プロセス改革につながる評価項目を十分に設定しなかった。業務プロセス改革に結び付かなくても、ITコストの削減さえできれば「成功」とみなせるようになってしまった。

 では、ITコストの削減効果はあったのか。総務省行政管理局が作成した資料によれば、政府の情報システムにかかるコストは2008年度予算の6268億円から、2012年度予算では5283億円に1000億円ほど減った。この数字を見る限り、ITコストを抑えられたようではある。

 だが、ユーザー企業出身のあるCIO補佐官は「ハードウエアの性能向上に伴うサーバーの集約だけでも、同様のコスト削減を実現できた可能性がある」と分析する。「あえて多額の費用をかけて全システムをオープン化(メインフレームからオープンシステムへの移行)する必要はなかった」(同)との考え方だ。

見えざる「ベンダーロックイン」

 最適化計画で競争入札や分割発注の仕組みを取り入れたことは、調達の透明性や競争性の向上につながったのか。答えは残念ながらノーである。

 調達の透明性や競争性が十分に高まったとは言い難いことを示す会計検査院のデータがある。2008~2010年度に各省庁が結んだシステムに関わる契約では、随意契約の案件と、競争入札で応札が1社のみだった案件が全体の8割に上った。しかも両者とも、予定価格に対する落札額の割合を示す「落札率」が平均96%を超えた。

 前述した国税庁の国税総合管理(KSK)システムも、1社応札となった事例の1つだ。政府の指針に沿って随意契約から競争入札に移行したが、落札したのは現行システムを担当する文祥堂だった。文祥堂の下請けである各大手ベンダーが自社の担当システムのオープン化をほぼそのまま担う形となった。

 この入札について財務省の担当者に問うと、次のような答えが返ってきた。「可能であれば他のベンダーにも入ってほしいが、国税の業務自体を理解してもらうことが難しい。国税システムは刷新失敗の影響が大きすぎるため、(業務を知らないベンダーの参入は)財務省にとってリスクが高い」。

 価格面に頼った競争が時に品質を犠牲にしてしまうのは確かだが、提案の品質を競う上でも複数社の応札は不可欠だ。当時の状況は、分割発注を導入したにもかかわらず、見えざる「ベンダーロックイン」に縛られていたと言える。