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 大量生産・大量消費を前提とする「モノづくり」経済が衰退する一方で、デジタル技術の進展に合わせて顧客のデジタルシフト、所有から利用へのシフトが加速している。そうした環境変化の中で、従来のモノづくりは今すぐにはなくならないとは理解しつつも、中長期を見据え、他社に遅れないようにと多くの企業がデジタルを活用し、顧客に価値や体験を届ける「コトづくり」を模索してきた。

 自動車業界に目を向けると、CASE・MaaSの中でもデジタル技術と親和性が高く、実現性も高いコネクテッドとシェアリングにまつわるコトづくりの取り組みが注力されてきた。しかしながら、その取り組みが成功しているとは言いきれないだろう。普及は進んでいるが、マネタイズに苦慮している企業が大半であり、コトづくりの“次弾“がなかなか生み出せていないといえる。

 モノづくりに注力してきた企業にとってデジタルを活用したコトづくりは新規事業であり、失敗はつきものである。では、数を撃てば当たる、の話ではないが、さらなるコトづくりを推進し、少しでも成功を生み出すためには何が必要であろうか。

 多くの企業がコトづくりを推進するうえで、「なぜコトづくりを行うのか?」(Why)、「何のコトづくりを行うのか?」(What)、「コトづくりのアイデアをどのように実現するのか?」(How)という3つの論点に対峙してきただろう。この数年で多くの企業がWhatの壁で試行錯誤を重ねてきた。顧客が誰なのか、その顧客ニーズは何なのかといった顧客起点に立ってスタートするも、明確な顧客像が描き切れず、解像度の低い文字通り“想像の顧客”に対して自社のアセットやデジタル技術目線のコトづくりのアイデア創出が先行してしまう。結果、顧客価値が十分ではないコトづくりアイデアを具体化することになり、次のHowの壁で立ち止まってしまうのである。

 我々はWhy、Whatを定義する初期段階で少しでもよいので顧客の生の声を拾い、その声に根差したコンセプト作りを推奨している。後段で述べるHowの壁のPoC(実証実験)段階でアイデアやコンセプトに対する市場・顧客の受容性を検証することになるのだが、そのコンセプト自体が顧客起点に立っていなければ適切な検証ポイントを識別することも難しくなる。こうした試行錯誤を重ねて、一部の企業はWhatの壁を乗り越え始めている印象だが、「コトづくりを推進したが、PoC止まりになってしまった」「PoCまで終わったが、実はどうもうけるかがクリアになっていない」「事業化準備を進めているが、顧客が見つからない」といった最後にそびえ立つHowの壁に直面し、「改めてWhatからやり直さなければならない」といった声もよく聞く。

 本稿では、コトづくりにおけるHowの壁に焦点を当て、コトづくりにチャレンジ・実現するための課題と検討の方向性について掘り下げていく。なお、コトづくりとデジタルは切っても切り離せない関係性にあるため、以降はコトづくり=“デジタルを活用した”コトづくりと読み替えていただきたい。