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 「変化の風が吹いたとき、壁を築く者がいる一方で、風車を立て変化を利用する者もいる」。これは、「変化に対して壁を作り退けるのではなく、むしろ新たなチャンスとしてポジティブにとらえるべきだ」と説く古いことわざであるが、現在の自動車産業にも当てはまるのではないだろうか。

 自動車産業は急速に変化し続けている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によりサプライチェーンが混乱する中で、自動車メーカーはCOVID-19以前の製造レベルへの回復とともに、カーボンニュートラルなど新たなチャレンジへの対応に迫られている。また、部品サプライヤーは、自動運転やコネクテッドに代表されるテクノロジーの進展に加え、新規サプライヤーの参入による生存競争の激化により、既存事業の効率化と並行して新たな領域へのチャレンジが求められている。社内のリソースが限られる中、このような状況に対応していくためには、デジタルを活用したビジネスおよびオペレーションのトランスフォーメーションが不可欠である。

自動車業界の環境変化がサプライチェーンに及ぼす影響

 COVID-19以前より自動車業界は大きな変革期に突入している。テクノロジーの発展、地政学的気候の変化、社会のトレンド変化などの背景により、自動車メーカーおよび部品サプライヤーのビジネスサプライチェーンも大きく変わる可能性がある。以下、近年の自動車業界の環境変化がサプライチェーンに及ぼす影響について考察する。

テクノロジーの発展

 テクノロジーの発展は、自動車業界のサプライチェーンの大変革を招いた。自動車には多くのセンサーや洗練されたソフトウエアが搭載され、コネクテッド化や自動運転化を可能にした。米Google(グーグル)のような大手ソフトウエアメーカーも、Waymo(ウェイモ)とのM&Aにより自動車ビジネスに参入し、従来のサプライヤーに挑む。顧客は高いカスタマイズ性を追求し、それに応じた販売チャネルの多様性が広がり、IoTや3Dプリンターなどの新規製造技術への適応は、さらなる効率性と低価格を求めて既存のサプライチェーンのオペレーションを根底から覆す可能性を含む。

カーボンニュートラルと電動化シフト

 2020年10月に菅首相が所信表明演説において「50年までに、温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。これを受けて自動車業界においても、30年代半ばまでに乗用車の新車販売を電動車のみとするなどの目標が盛り込まれた「50年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の実現に向けた検討が本格化している。日本政府は、21年6月末にグリーン成長戦略の改定を予定しており、自動車メーカーは対応方針の決断を迫られている。

 カーボンニュートラルへの対応に当たっては、日本独自のやり方を模索していく必要があるが、いずれにせよ、街づくりも合わせたインフラ整備が不可欠と考える。例えば、充電インフラや水素ステーションを要所に配置するとともに、電動車向けロードサービスを整備し、利用者がいつでも最寄りの空き状況を確認できるような仕組みを用意するなどがある。

 また、二酸化炭素(CO2)排出量に対する規制についても、調達先や納入先も含めたコントロールが求められるため、自社の排出量をタイムリーに配信して、サプライチェーン全体でのCO2排出量の管理に貢献できることが、エコシステムに参画することの必須条件となると考える。そのためには、バリューチェーン上の各プレーヤーが、デジタルネットワーク上にモノやサービスの情報を公開し、利用者のニーズに応じて柔軟かつ迅速な対応をするためのビジネス基盤が必要となる。

サーキュラーエコノミー

 15年12月にEU(欧州連合)が公表した「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は、欧州のグリーンディール政策を行うための重要な政策プログラムの一つである。サーキュラーエコノミーには、3R(Reduce、Reuse、Recycle)の延長線上では捉えきれない広義の「循環」の意味合いが込められており、「自動車を含むあらゆる業界の産業構造やビジネスモデルの再構築をもたらすアジェンダ」と認識される。具体的に想定されるインパクトについて以下に述べる。

 資源の効率向上に向け、経済成長と資源利用のリニアな関係性を断ち切り、持続可能な経済システムへの再構築を図るのがサーキュラーエコノミーである。したがって、その実現には、製品の設計時から資源の効率性を考慮に入れた取り組みが必要であり、特に「再生材の活用拡大」と「エコデザインが捉える範囲の拡張」の点で、今後大きな変化を強いられる可能性がある。また、グローバルベースで中古部品の市場がますます活発化することが考えられ、アフターサービスにも影響を及ぼす可能性がある。

 欧州委員会は20年12月に電池に関するEU法の改正を提案し、20年3月に同委員会が公表した「循環型経済行動計画」に明記された行動における最初のイニシアチブを打ち出した。具体的には、電池の環境負荷を最小限に抑えるために、すべての電池について、再生材の含有量と電池の収集・処理・リサイクルに関する目標を設定する方針である。そうなれば、産業用・自動車用・電気自動車用の電池は、完全回収が必須となり、回収された電池はすべてリサイクルする必要があり、特にコバルト、リチウム、ニッケル、鉛などの希少材料の回収率を一定値以上にまで向上させなくてはならない。

 一方で新興国の自動車市場は依然として拡大を続けており、これは将来的な廃車の大量発生の可能性を示唆している。日本の自動車産業は相応の費用と手間をかけ、世界的に見ても極めて実効力の高いリサイクルシステムを形成しているが、これは日本の特殊な環境でのみ実現できることだ。将来的に大量発生するであろう廃車の処理について、動脈物流の整備だけでなく、現地の実情に合わせた静脈物流の整備が必要である。

 以上を踏まえると、自動車業界におけるサプライチェーン上の課題は、個社ごとに取り組むだけでなく、バリューチェーン全体で協調・協業しながら取り組む必要があることが分かる。その中で、デジタル技術がどのように活用され、自動車業界のサプライチェーンがどのように変わっていくのかを次に取り上げたい。