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業務の現場担当者は業務変更に過敏になりやすい

 この事例を見て、「機械学習モデルを前提として業務やプロセスをつくり、それを業務の現場担当者に伝えればよい」と考えるかもしれない。しかし実際にはそう簡単にはいかない。

 機械学習モデルによる予測精度は実際に試してみないと分からない。その結果によって、既存の業務やプロセスをそのまま置き換えられるか、一部を変更するか、導入しないかが決まる。そのため通常は、既存の業務やプロセスの一部を変更しなければならないという前提に立って業務現場との調整をせざるを得ない。

 この場合、関係者とは「既存の業務やプロセスの変更がある」という前提で事前に合意しておき、予測精度を確認してから変更を加味して関係者を選び調整や分担を相談するとよい。その際、おおよその業務やプロセスを早めに関係者に周知しておくことも勧めている。変更となる対象業務やプロセスが広くなる可能性を早めに知らせられるからだ。

 周知に使う図の例を下記に示す。こうした導入前後の業務の変更を大まかに伝えることで、関係者との調整がスムーズになりやすい。より良い方法を提案してもらえることもある。

関係者への周知に使う図の例
関係者への周知に使う図の例
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 業務の現場担当者の多くは、既存の業務やプロセスが機械学習モデルにそっくりそのまま置き換わると想定しがちだ。そこで「既存の業務やプロセスが1対1で機械学習モデルに置き換わるかどうか分からない」と事前に周知すれば、より適切なメンバーでミーティングを開いてもらえる可能性が高まる。現場担当者と個別にミーティングをした場合、その担当者だけで判断できない部分が出ると機械学習モデルの導入自体を拒否されがちである。

 一般にマネジャーやリーダークラスの担当者は例外的な追加業務やプロセスがあったとしても、業務全体としてそれを上回るメリットがあれば許容することが多い。しかし現場担当者はそうとは限らない。自分が担当する例外処理や業務、プロセスの変更を避けたがる傾向がある。自分の担当業務に責任を持つため、当然の反応といえる。

 業務全体の改善を図るには、分担や相互の調整が必要だ。それには現場担当者との個別のミーティングより、関係者が集まった場で議論するほうがうまくいく。また「自分の仕事がより複雑になる」「自分の仕事がなくなる」といった心配をする現場担当者がいることを想定し、どんな説明が必要か考えておくことも重要だ。

 移行期間や試行期間を計画し、事前に伝えておくことも勧めている。担当者によっては、こうした試行錯誤が必要だと思っていないことが多いからだ。

森崎 修司(もりさき・しゅうじ)
名古屋大学 大学院情報学研究科 准教授
大学院修了後、情報通信企業においてITエンジニアとしてシステム構築に従事。2013年より現職。実証的ソフトウエアエンジニアリングやドキュメントレビューの研究に従事。情報処理推進機構(IPA)の「つながる世界の品質指針検討ワーキング・グループ」をはじめ3つのワーキンググループの主査を務める。著書に『間違いだらけの設計レビュー改訂版』(日経BP)がある。