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 ノーコードツールを使いこなす現場出身者と中途採用のエンジニアらをうまく組み合わせ、変化に強いアジャイルなIT組織づくりを進めてきた星野リゾート。新型コロナウイルスによって事業環境が大きく様変わりするなか、GoToトラベル用予約サイトの立ち上げや、混雑状況を可視化する「大浴場IoT(インターネット・オブ・シングズ)」の開発など、「内製力」を武器にした高速開発で着実に成果を生み出している。

 2021年4月、中国浙江省(せっこうしょう)に開設した新施設「星野リゾート 嘉助天台(かすけてんだい)」。星野リゾートにとって中国大陸への初進出となる施設で、海外進出に力を注ぐ同社の中でもとりわけ重要な案件である。実はIT戦略の面でも嘉助天台は同社らしさを象徴した案件と言える。情報システム部門のスタイルを存分に発揮した。

2021年4月に開業した中国浙江省の「星野リゾート 嘉助天台」
2021年4月に開業した中国浙江省の「星野リゾート 嘉助天台」
(出所:星野リゾート)
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固まった要件が6割でも走り出す

 嘉助天台の開業プロジェクトに参加したのが、中途採用で入社した情報システムグループプロダクトオーナーチームの仇信栄氏と運用チームインフラ担当の神戸光氏だ。仇氏は現地ITベンダーのマネジメントや導入するプロダクトの選定などを担い、神戸氏はネットワークインフラの設計を担当した。「決まっている要件が6割くらいの状態で走り出し、現地ITベンダーの技術力や対応力、スタッフの反応などを見ながら徐々に最適な方向に進むかたちだった」。仇氏はプロジェクトをこう振り返る。

 確定した要件が6割の状態でも進めなければならないのには訳がある。星野リゾートはホテルを自社で所有せず、オーナー(所有者)から借りて自らは運営に特化するという国内では珍しいビジネスモデルを採用しているためだ。

 そのため新たに開業する施設にシステムを導入する際には、オーナーが現地のITベンダーに開発業務を発注し、星野リゾートは支援するかたちを採る。同社が重視する予約システムとCS(顧客満足度)システムは独自開発のものを導入してもらうが、そのほかは現地の商習慣に合わせた最適なプロダクトを現地ITベンダーと相談しながら採用する流れだ。最初からきっちり要件を固めることを嫌う現地IT業界の事情もあり、必然的にベンダーマネジメントは複雑となった。「現地でプロダクトを評価して変更などに都度対応する、走りながらの開発作業だった」(仇氏)。

 ネットワークインフラを担う神戸氏もアジャイルな対応が求められた。神戸氏が現地ITベンダーらが手掛けたネットワーク設計を調べたところ、同社が日本の施設に求めるセキュリティー水準には遠く及ばないと判明し、急きょ見直しの必要性に迫られた。