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ジョブ型雇用のメリットを取り入れ、メンバーシップ型の良い点も残すにはどうすべきか。IT活用やジョブディスクリプションによる可視化がカギを握る。目指すはキャリアプランが描きづらく生活の質も低い、日本型雇用の弊害の克服だ。

 日本のメンバーシップ型雇用、つまり職務・勤務地・労働時間が無限定の雇用は、働く正社員に長期安定雇用の恩恵をもたらす一方、不幸を強いてきた面がある。

 例えば、本人にとって不本意な異動。自分のスキルや関心領域とは畑違いの仕事を唐突に命じられることもあり、専門性を高めにくい。

 意に沿わない転勤はさらに不幸だ。本人はもちろん配偶者のキャリア、住宅購入や子どもの教育といったライフプランにも多大な影響が生じる。やむを得ず単身赴任する人もいるだろう。

 日々の残業は心身の健康を阻害し生活の質が下がる原因になるだけではなく、子育てや介護との両立を困難にする。就業時間外に大学院などに通って勉強することも難しくなる。

 欧米のジョブ型雇用をそのまま取り入れるのではなくメンバーシップ型雇用の良い面は残しながら、それがもたらす不幸な面を甘受せず修正する。取材を通して、ジョブ型と向き合う上で念頭に置くべき3カ条が見えてきた。

ジョブ型の検討を含めたIT人材戦略の3カ条
ジョブ型の検討を含めたIT人材戦略の3カ条
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人材戦略の策定にCDOも連携を

 まず経営戦略と人材戦略を一致させること。企業価値を高めるのは人材だ。経産省『人材版伊藤レポート』は、人材戦略を策定する際には、最高経営責任者(CEO)や最高人事責任者(CHRO)、最高財務責任者(CFO)だけでなく最高デジタル責任者(CDO)とも密接に連携すべきだと説く。人材情報の一元管理や見える化には、デジタル活用が欠かせないからだ。

 人事情報をデータ化し定量化して把握するのも不可欠だ。「人材戦略を策定するだけではなく、取締役会で監督・モニタリングすべきだ。そのため何をしたらどう変わったか定量的に捉える必要がある」。経産省経済産業政策局産業人材課の片岸雅啓課長補佐はこう指摘する。

 実は日本企業の水平的な人事異動にはメリットもある。異動を通じて他部署の業務内容を知り人的ネットワークを構築できる。異なる部門間での情報共有や調整がしやすく、幹部だけではなく現場の社員も自社の経営戦略を理解しやすくなる。分業体制がはっきりしている欧米企業では経営層が情報を集約し、現場は自分の仕事に関する情報しか持っていないことが多い。「テレワークが広がる今、日本企業特有の情報共有のあり方もテクノロジーを駆使して再現すべきだ」と慶応義塾大学の鶴光太郎教授は指摘する。

 経営戦略に人事戦略を一致させた上で、個々の社員が自律的にキャリアを描けるよう支援すること。これが2つめのポイントである。社内にどんな職務があり、各職務にどんなスキルが要るのかといった需要側と、個人のスキルや将来設計といった供給側をマッチさせるような異動が重要だ。

 ここでもデジタル技術が貢献するだろう。例えばジョブディスクリプション(JD)はメンバーシップ型雇用であっても社内の職務とスキルを可視化するために有用といえる。ITを使ってJDを適切に管理すれば、人材の需給を効率的にマッチングできる。AIを活用し、社員にお勧めポストを提示したり、募集したポストに適した候補者を抽出したりする機能も役に立つ。

 会社員であっても、会社の言いなりではなく、自分のキャリアを主体的・能動的に切り開いていけるという実感を持てれば、勉強して専門性を高めようという意欲も湧いてくるはずだ。