全2785文字
PR
 この記事は、リバネス代表取締役グループCEOの丸幸弘氏とフューチャリストの尾原和啓氏の著書を一部編集した日経ビジネスXのコラム「眠れる技術『ディープテック』を解き放て」にて2022年3月3日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。大学や研究機関で長期間かつ多額の費用をかけて研究開発された技術を基に、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決したりする技術「ディープテック(Deep Tech)」の潮流を解説します。

 前回も触れたライスハスク(もみ殻)は燃料になるだけではない。ベトナムの大学が、もみ殻から超高品質の「シリカ」を生成する研究に成功した。工業分野から化粧品、医薬品、または食品添加物など、様々な用途に使えるシリカだが、実は今後、資源として不足してくることが予想されている。この先、価格の上昇も想定される素材をバイプロダクトで生成できる技術は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)としても大きな可能性を持っている。

 シリカには具体的にどのような用途があるのだろうか。

 マレーシアとフィリピンのチームがユニークなアイデアを持っている。マレーシアのIIUM(マレーシア国際イスラム大学)という大学のチームは、シリカと金属粉末を混合させることで、ディスクブレーキやギアといった硬質な部品を、安価で作る技術の開発に成功した。そうした部品がトラクターなどに活用されれば、農業における一つの循環型社会が成立する。

 もう一つが、フィリピンのBac Offという大学のチームだ。東南アジアにとってゴムは重要な産業だが、天然ゴムの樹液は腐りやすい性質を持っている。しかし、米由来のシリカにニッケルのナノ粒子を付着させて粉末状にすることで、殺菌効果が期待できるという。こちらもバイプロダクト発の技術であり、安価にゴムの品質向上を実現できるとして注目を集めている。

 ドローンによる生産性の向上、もみ殻を使って乾燥させることで上がる品質、さらにはもみ殻からシリカを生成し、部品などに転用していくアイデア。米に焦点を当ててみることで、様々なイシューが浮かび上がり、その解決に向けたアイデアが次々に出ていることがお分かりいただけただろうか。そして、こうしたアイデアやテクノロジーを「補完する技術」を持つ日本の企業は、決して少なくない。

課題の可視化がアイデアを集める

 さてここで、ディープイシューを「可視化」することの意味について考えてみたい。課題を分かりやすく顕在化させることで、人々の「気づき」が広がるケースは思いのほか少なくないからだ。その象徴的な事例として、オゾンホールを挙げてみたい。

 エアコンや冷蔵庫、スプレーなどに使用されていたフロン(クロロフルオロカーボン類)によって、オゾン層が破壊される可能性について言及されたのは1970年代半ばのことだった。人工的な物質であるフロンは、地上付近では分解されにくく、大気の流れによって成層圏まで流れていく。そして強い紫外線によって分解され、塩素を発生する。この塩素が触媒となってオゾンが破壊され、オゾンホールが生成されていくというメカニズムだ。このオゾンホールは南極上空を中心に広がり、南半球を中心に、皮膚がんになりやすくなる懸念が叫ばれた。

 しかし、オゾンホールのことをどこか他人ごとと考えていた人々の動きは鈍く、抜本的な対策が取られることはなかった。その風向きが、1980年代半ばに変わる。ようやく、南極上空にぽっかりと開いたオゾンホールの衛星画像を世界中の人が目にしたからだ。

 そのインパクトはすさまじく、オゾンホールという地球のディープイシューへの対策が、ついに世界全体で共有されることとなった。その後は、1987年にモントリオール議定書が採択され、1996年までにフロンを全廃することが定められた。