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 この記事は、リバネス代表取締役グループCEOの丸幸弘氏とフューチャリストの尾原和啓氏の著書を一部編集した日経ビジネスXのコラム「眠れる技術『ディープテック』を解き放て」にて2022年3月16日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。大学や研究機関で長期間かつ多額の費用をかけて研究開発された技術を基に、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決したりする技術「ディープテック(Deep Tech)」の潮流を解説します。

 多くのメーカーの販売スタイルは、売り切り型が主流だ。最新型の丈夫な電化製品でさえ、いつかは壊れてくれないと販売サイクルが回らず、商売にならない。つまり、メーカーは売り切りの呪縛から逃れられない宿命を背負い続けていると言える。

 この呪縛によって、2つの問題が生まれた。一つは第7回でも触れた通り、外部不経済が起こることだ。大量生産のための廃棄物や公害が増え、壊れた商品はリサイクル素材以外は産業廃棄物になる。もう一つは、ユーザーにもメーカーにもコストがかかること。長期的に見れば、本来なら商品を長持ちさせたほうが、ユーザー、メーカー、そして地球環境にとっても低コストになるはずなのだ。

 この悪循環を好循環に変えるため、昨今ではサステナブルPSSD(製品、サービス、システム、デザインの略称)が注目されている。簡潔にいえば、インターネットとモノをつなげることで、ユーザーとメーカーをつなぎ続け、初期投資やメンテナンスなど、ビジネスにおける両者の負担を滑らかにする、持続的なビジネスの成功の形だ。その一つの例が、サービスにおける月額制サブスクリプションの導入だ。

 インドの都市部以外では、家庭で使用する水を長時間かけて井戸までくみに行くために、学校に通えない子供たちが少なくない。近所に井戸を掘ることができればいいが、人々には設備投資に必要なまとまった資金がない。そこで生まれたのが、月額制で水の使用料を払い続ける代わりに、企業側が井戸を作るための初期投資を負担するサービス「ウオーターATM」だ。Piramal Sarvajalという企業が提供している。一定数の利用者が集まればどこでも実施できるという。

 そもそも現代における貧困にはいくつかの負の循環がある。こういった月額制が解決するのは、まとまったお金がないために初期投資ができず、設備を整えられないために起こる様々な悪循環だ。ウオーターATMの場合、子供たちが学校に通えるようになることで教育レベルが上がれば、格差の固定化から脱出できるだろう。

 この仕組みは様々な領域でも応用できそうだ。例えば、新興国で炊飯器を買えない家庭があったとしよう。この家庭は毎日コンビニでおにぎりを買い続けるとする。だが、結果的に食費はかさみ、ゴミも増えてしまう。この課題を解決するために月額制のサブスクリプションを取り入れるとどうなるか。毎月の米代を2000円支払い、かつ2年契約を条件に炊飯器(初期費用)と毎月の電気代を業者側に負担してもらえるとしたら。食費の負担を減らせる上に、これまでの生活と比べて毎日出ていたゴミを減らせるようになる。

 そもそもなぜこのような仕組みがインドで可能になったのだろうか?