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システム標準化で「はんこ」が不要に

 さらには行政手続きが容易になる。現在、保育所に入園したい人が自治体に提出する就労証明書という書類があるが、自治体ごとにフォーマットが異なる。こうした提出書類を共通化・標準化すると手続きが大幅に楽になる。受け取る自治体側も楽になるし、間に入る企業にとっても負担が減る。システムの標準化は自治体の業務フローを共通化するということ。当然、これまで求められてきた「はんこ」も不要になる。

 そのほか、ぜひとも早期に実現したいものにはマイナポータルを使った簡易な確定申告サービスがある。「あなたの今回の収入はこれとこれなので税金はこれだけです。納税してもいいですか?」と出てきたらOKのボタンを押すだけで確定申告が終わるといったようなものだ。働き方の多様化促進で副業解禁が増えているという実態からも、優先順位は高い。こうした国民にとってのペインポイント(悩みの種)を見つけて優先的に取り組んでいきたい。

 はんこはある種、分かりやすいケースだった。はんこを廃止したかったわけではなく、手段を限定しているルールを変えたかった。それによって民間の慣習も変わるというのが重要なポイントだった。

 次は何を無くせるのだろう、何を変えられるのだろうと皆さんに考えてほしい。当たり前のように思っていても、不便なことが数多く眠っているはずだ。こうした不便に気づき、問題提起が次々と生まれてくればと思っている。

自治体が個別にシステムを構築していたため、システム構築を担ってきた企業もまたこれによって潤ってきた側面がある。共通化されれば、収益は下がる。反発や抵抗はなかったか?

 規制改革を通じて学んだのは、ステークホルダーと直接話をする重要性だ。規制改革が進まない理由を伝え聞いた言葉で挙げる人が多い。例えば、自治体のシステム共通化であれば「地域のシステム構築を担っている企業の反対が大きい」といったものだ。そのため、実際にシステム構築を担う企業に直接話を聞きにいった。「いずれ各自治体でバラバラのシステムは標準化されるだろうと思っている」という回答だった。実際にシステムに携わる人たちだからこそ、将来、変わらざるを得ないということを認識していた。

 今回、政府が整備するクラウドの上で動くアプリケーションをつくるのはこうしたシステム構築を担ってきた企業だ。もちろん、従来と同じ開発内容ではないため対応への負担は一時的に生じるが、それでもビジネスチャンスは大きく広がる。どこかの自治体で採用されたアプリケーションが、全国各地で採用される可能性は当然出てくる。限られた自治体で事業を展開していた企業が全国に市場を広げられるのであれば、それは大きな躍進の機会を得ることになる。

政府はこれまでも「世界最先端IT国家創造宣言」をうたってきたが、日本の行政のデジタル化やIT活用による効率化はことごとく他国の後じんを拝してきた。世界最先端を意識する必要がそもそもあったのか。

 当時は高速通信回線(ブロードバンド)の普及を促進するという側面から、世界最先端を目指すことと社会が豊かになることが直結していたのだろう。

 だが、個人的な意見を問われれば、国民にとって最高であればそれでいいと思う。国民の能力を引き出し、意欲を高め、チャンスを最大限引き出せるインフラをつくれればそれでいい。最先端であることを重視していない。

 今回成立したデジタル改革関連法には「誰一人取り残さない」ということを記した。テクノロジーを用いて多様でフェアな社会をつくりたいだけ。テクノロジーはあくまでも手段だ。世界最先端を意識すれば、手段が目的化されてしまう。そういう意味では今回の法案は個人を起点に考え進められてきたものだ。