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 この記事は、Relicホールディングス 代表取締役CEO/Founderの北嶋 貴朗を一部編集した日経ビジネスXのコラム「VUCA時代を生き抜くための新規事業開発マネジメント」にて2022年4月6日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。VUCA(Volatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性)時代と呼ばれる現在において、いかにして新たな産業や市場を創出するか。経営者だけでなく、ビジネスパーソン個人にも問われています。

 日本発のイノベーションをどのように生み出し、国家経済の再興を図るかは、非常に重要な論点です。日本の産業界も、そして政府も、今後も注力して考えていかなければならないテーマでしょう。

 近年では政府の後押しもあり、日本でもスタートアップ・ブームが広がり、米中と比較するとまだまだその規模は小さいという課題はあるものの、以前よりもしっかりとしたスタートアップ・エコシステムが形成されつつあります。

 コロナショックにより先行きは不透明ながら、ここ数年はベンチャー企業への投資額や新規上場企業数、M&A(企業の合併・買収)の成立件数なども右肩上がりで上昇しており、スタートアップやベンチャー企業こそが日本のイノベーションの旗手という見方もされています。

 また、最新のデータによると、コロナ禍でもベンチャー企業やスタートアップへの投資熱は冷めることはなく、アフターコロナ時代、ニューノーマル時代を見据えた有望な領域や分野では、むしろ以前にも増して投資が加速している面もあります。

 しかし、イノベーション大国・日本の再興を、ベンチャー企業やスタートアップの台頭と成長だけに頼って成し遂げることはできるのでしょうか。

 答えは「ノー」だと筆者は考えています。

 スタートアップの数や規模感、影響力の観点から、現状においては、いまだ日本経済に与える影響は限定的だからです。日本の産業構造を形づくっている企業群は、主に売上高や従業員数などを基に「大手」や「中小」に大別されます。

 スタートアップは中小企業の中でも特殊な存在であり、革新的なビジネスモデルや技術を持って、これまでにない市場や価値を創出し、短期間で急成長を目指すのが基本的なスタンスです。どちらが良い・悪いという話ではありませんが、安定的な成長を目指している多くの中小企業の経営とは根本から異なる存在です。

 日本全国で2016年に540万社以上の法人が存在し、そのうちの99%がいわゆる一般的な中堅・中小企業であり、スタートアップは全体の1%にも満たない約1万6000社のみとされます。つまり、そもそもスタートアップが占める割合が極めて少なく、またそこに供給されるリスクマネーも成長はしているものの現状は最大でも5000億円程度とされており、10兆円を優に超えるといわれる米中と比較するとまだ非常に少ないのが実情です。さらに、その数少ないスタートアップの中でも株式を公開し、上場に至る企業は一握りです。

 また仮に上場したとしても新興市場では、1社あたりの時価総額は平均で66億円程度です。時価総額だけでなく、GDP(国内総生産)に対する規模や影響力の観点からも、占める割合は大きくありません。

 もちろん、1社で大きな影響力を持つメガベンチャーやユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)といわれるような企業を育てる努力も重要ですが、日本経済全体やイノベーション力へのインパクトという観点から、スタートアップを支援するだけでは不十分なのです。

あらゆる経営資源が大企業に偏る日本

 一方で、日本の大企業はどうでしょうか。企業数は約1万1000社とスタートアップよりも少ないものの、そこで働く従業員は日本全体の労働人口の約30%を占め、産業構造の上流から中流、下流にあたる多くの中小企業の経営を支えています。

 売り上げ規模や時価総額などの面から見ても、1社あたりの影響力が非常に大きいのです。それ以上に特筆すべきは、大企業が保有する経営資源の豊富さです。特に日本は先進国の中では異例なほどに、人材(ヒト)、 有形の資産(モノや土地、設備)、資本・資金(カネ)、 無形の資産(情報やデータ、技術)など、あらゆる経営資源が大企業や上場企業のような一部の優良企業に集中しており、大企業の内部留保は約460兆円にものぼります。