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 この記事は、Relicホールディングス 代表取締役CEO/Founderの北嶋 貴朗を一部編集した日経ビジネスXのコラム「VUCA時代を生き抜くための新規事業開発マネジメント」にて2022年4月18日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。VUCA(Volatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性)時代と呼ばれる現在において、いかにして新たな産業や市場を創出するか。経営者だけでなく、ビジネスパーソン個人にも問われています。

 スタートアップとは異なる、大企業や一定の経営資源を保有する企業における企業内新規事業開発がうまくいかない理由として、どのような壁が立ちはだかるのでしょうか。そこには企業内新規事業の在り方を機能させられない数多くの構造的な課題が存在します。その構造的課題は、筆者のこれまでの経験から大きく次の3つに分類できます。

①ビジョンや新規事業開発に関する方針・戦略がない
②良質な多産多死を実現するための組織になっていない
③自社の性質や事業の不確実性に応じた事業開発プロセスを実行していない

 現状で企業内新規事業がうまくいっていない企業の多くが、これらの課題のいくつか、またはすべてに当てはまっているのではないかと思います。そのため有望な新規事業がなかなか出てこない、または出てきてもその芽を潰してしまっている可能性があります。そこで、なぜこのような課題が生まれるのかを考察していきましょう。

中長期的なビジョンや方針・戦略を持とう

 筆者はさまざまな企業で新規事業開発のプロジェクトに携わり、新規事業創出プログラムや社内ベンチャー制度の企画・策定や運用、オープンイノベーションへの取り組みなども含めて多面的に支援してきました。そこで多くの企業が中長期的なビジョンや、それを実現するために「なぜ新規事業に取り組む必要があるのか? 」「自社にとって必要な新規事業の定義とは何か?」「新規事業開発にどのように取り組んでいくべきか?」――という全社的な方針や戦略を定めていないことに驚きました。

 そして、それこそが新規事業開発の進捗を阻む大きな課題の1つであると気づきました。例えば、全社的な方針や戦略が定義されていなければ、自社に必要な新規事業の領域や要件を検討するための「判断軸」がなく、良い事業構想を練ることができません。

 また、そもそも新規事業開発やイノベーション創出のためにいくら投資すべきなのかわからないなど、原資が確保できていないために「投資の可否を決められない」「経営判断として適切な投資の意思決定やリソース配分ができない」という場合もあります。各部署や部門でバラバラに新規事業開発に取り組み、自社の新規事業の定義や狙いとは異なるプロジェクトにリソースを浪費し、優先度の高い新規事業への投資の機会や原資を失ってしまう可能性もあります。