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 この記事は、Relicホールディングス 代表取締役CEO/Founderの北嶋 貴朗を一部編集した日経ビジネスXのコラム「VUCA時代を生き抜くための新規事業開発マネジメント」にて2022年5月2日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。VUCA(Volatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性)時代と呼ばれる現在において、いかにして新たな産業や市場を創出するか。経営者だけでなく、ビジネスパーソン個人にも問われています。

 再現性の高い新規事業開発を継続していける「先進的企業」へと変身していくためには、「経営トップの強いコミットメント」と「中長期の時間軸で健全な多産多死に取り組み続けること」が重要です。そのためにはまず、全社的なビジョンとその実現に向けた新規事業開発の方針や戦略を策定し、それを共有して浸透させることに取り組まなければなりません。

 よくあるのが、いきなり個別の事業構想や戦略を練ることから始めてしまうケースです。これは主にスタートアップに適した進め方だといえます。1つの事業やプロダクトに集中して急激な成長を志向するスタートアップは「事業のビジョン≒全社のビジョン」「事業の戦略≒全社の戦略」となるフェーズが存在するため、その事業やプロダクトの成長こそを最優先にすべきであり、全社的なビジョンや方針・戦略を改めて策定する必要性は相対的に低くなります。

 しかし、安定した収益を上げる既存事業を待つ大手や中堅の企業において、新規事業開発は「ビジョンの実現に向けた全社戦略や成長戦略の中で取り得る選択肢の1つ」にすぎません。企業にとって新規事業開発やイノベーションは、あくまでも手段であって、目的ではないのです。そこで必要となるのが「インキュベーション戦略」という考え方です。

 このビジョンに基づく新規事業開発全体の方針や戦略を策定する段階では、具体的にどのようなステップで検討すべきでしょうか。筆者は下の図表のように定義しています。

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 この7つのステップを明確にし、経営層がストーリーとして語り続けることが、新規事業開発全体の方針や戦略を共有し、浸透させていく上で重要です。

 もしこれが曖昧であるとか、明確に策定されていても経営層のコミットメントや社内への発信が弱い場合は問題です。経営層と実際に新規事業開発に取り組むチームやメンバーとの間に、意志や認識の大きな乖離(かいり)が生まれてしまうからです。

 現場が経営層の意図や新規事業に取り組む意義を理解できないまま不確実性の高い困難なプロジェクトを任せられると、当事者意識を持てない状態で、暗中模索を続ける状況に追い込まれます。当然、成果は上がりにくくなり、成功確率も大きく下がってしまいます。

 また、現場主導で懸命に進捗させている新規事業プロジェクトがあっても、それが全社的な方針や戦略と合致していないため優先度が下がり、プロジェクトの縮小や中止・撤退を余儀なくされることもあります。