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 この記事はWiL パートナーの久保田雅也氏による日経ビジネス電子版のコラム「ベンチャーキャピタリストの眼」にて2021年7月8日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。日本の企業にとって参考になる海外のDX(デジタルトランスフォーメーション)事例と変革の視点を紹介します。

 今から4年前の2017年、ハートフルなサービスが米フロリダ州マイアミ市でこっそりと産声を上げた。「Papa(パパ)」と一風変わった社名のこの会社は、高齢者に簡単な生活支援を提供するためのサービスを始めた。

 目を付けたのは介護にまでは至らないものの、日常生活でちょっとした不便を抱えた高齢者たち。こうした人々の日常生活を「Papa Pal(パパ・パル)」と呼ばれる登録スタッフが支援する仕組みを整えた。

 支援内容は実に幅広い。例えば、買い物に付き添って荷物を代わりに持つだけでもいいし、パソコンの使い方を教えるだけでもいい。洗濯や料理の準備を手伝ってもいいし、映画を一緒に見るだけでもいい。介護とまではいかなくとも、独りでは不安な日常生活をサポートするというものだ。

 Papa Palの中心は健康や身体に関する情報にたけた看護学校や大学医学部の学生。登録に際しては徹底した面接が行われる。その合格率は10%以下といわれるほどなので、Papa Palの質には相当のこだわりを持っていることが分かる。

 Papa Palの時給は最大15ドル(約1600円)と米国の水準に照らし合わせると、決して高くはない。それでも、これから医療に関わる学生にとって高齢者のケアが貴重な経験であることは間違いないだろう。

 加えて、高齢者とのマッチングシステムも特筆すべき特徴だ。テーマや経験といった、興味や関心でマッチングされる仕組みになっている。例えば、米国近代史について興味がある学生はベトナム戦争の経験を持つ元軍人の高齢者とマッチングすることによって、座学では学べない話を聞ける。Papa Palにとって、単なるアルバイトを超えた価値を得られる経験ができるようになっている。

 人と人のふれあいを大切にした温かいサービスを展開してきたPapa。だが、コロナ禍は容赦なく同社のビジネスモデルを破壊へと導いた。相次ぐロックダウン(都市封鎖)により、Papa Palは高齢者宅に訪問して日常生活を支援することができなくなってしまったからだ。

 世間では、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)と呼ばれる米国企業たちがコロナ禍を追い風に業績を伸ばし、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが企業存続の成否を決めるとまでいわれた。巻き起こる「DX祭り」を前にPapaは頭を抱えた。

 まったく手を打たなかったわけではない。2020年3月には通話を通じて高齢者をケアする「Virtual Companionship(バーチャル・コンパニオンシップ)」を投入するなどして、コロナ禍の中でもなんとか事業を存続させようと力を注いだ。

 そして、驚くべき結果がPapaを待ち受けていた。