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 この記事は宮崎真氏による日経ビジネス電子版のコラム「元日経記者がパリでAIエンジニアになってみて」にて2021年9月3日に掲載されたものを日経クロステックに転載しています。フランスで受けたAI教育、関連業界への就職事情、日本との違いなどをリポートします。

 こんにちは。パリ在住で、フランス発の機械学習プラットフォーム、Dataiku(データイク)という会社で欧州企業のデジタルトランスフォーメーションを支援している宮崎真と申します。日本でオンラインを中心にAI(人工知能)など先端技術の教育を展開するzero to one(仙台市)のリサーチ担当もしています。

 今回の連載ではAI、データサイエンスというテーマを中心に業界や教育機関の動向、関連用語などについて書いていきます。私の経験をもとに執筆しているので、欧州、特にフランスの事情に関する内容が多くなります。AIやデータサイエンスと聞くとシリコンバレーのある米国が最先端というイメージがあるかもしれませんが、欧州も各国が力を入れていて参考になる点が少なくないと思います。どうぞお付き合いください!

 初めに私の簡単な経歴です。都内の大学で経済を学んだあと、日本経済新聞で約6年間、記者として働きました。2017年に退社したあと、フランスのEcole PolytechniqueとHEC Parisにてデータサイエンスを勉強し、理学修士号を19年に取得しました。同年からDataikuで勤務しています。

 この修士号は理工系の高等教育機関であるEcole PolytechniqueとビジネススクールのHEC Parisが16年に新設した2年間のプログラムです。1年目は線形代数・行列・統計学・回帰分析をがっつり学び、プログラミング言語のRとPythonを使って基礎的な機械学習・ディープラーニングを実装できるまで訓練します。

 インターンシップを挟んでこうしたスキルに磨きをかけたあと、2年目はHECと提携している10~20社の企業から与えられたケース問題をこなします。ビジネスで使える実践的なデータサイエンスのスキルを身につけるのがプログラム全体の目的です。

不足する3つのAI人材とは

 AI人材の不足――。

 昨今いたるところでよく耳にする言葉です。AIをつくれる人や使える人が需要に対して不足している状況を指しています。ここではAI人材の不足とは具体的にどのような状況を指すのか、どういった人材が不足しているのかについて、自分の経験をもとに書いていきます。

 AI人材がどれほど不足しているかについては、様々な研究機関が統計を出していますので、ここでは詳しく述べませんが、例えば、中国のテンセントは、世界のAI技術者及び研究者が30万人なのに対し、関連する働き口は数百万の単位で存在すると試算しています(*1)。日本国内でも、経済産業省はAIやビッグデータ、IoTなどを担う人材が30年に約55万人不足すると見積もっています(*2)。いずれも17~18年ごろの資料ですが、大きなトレンドは今も変わりません。

 なぜこれほどまで人材が不足しているのでしょうか。

 一つにはデータを集めやすくなったことが挙げられます。ソーシャル・メディアなどデジタルな場所で顧客と接点を持つ企業が増えたことや、製品そのものがインターネットにつながることでデータを簡単に集められるようになったことなどが背景にあります。またデータベースの活用が進み、入手可能なデータの種類と量が爆発的に増えているためです。

 データを手に入れるのにかかるコストも下がっています。例えば、人の心拍データを集める場合、昔は患者が医療機関に行くまでのコスト、医者が診療するコストなどがかかっていました。今では簡単なウェアラブル端末さえあれば誰もがどこにいても心拍データを計測して医療機関に送ることができます。商品を買った人がどう思っているのかを調べたい場合も、昔は一人ひとりにアンケートをとっていました。今ではウェブサイト上のレビューを集めたり、商品自体がIoTならじかに利用データを集めたりすることができます。

 データ活用技術の研究がものすごい勢いで進んでいることも理由です。高度なアルゴリズムが次々に発明され、膨大なデータを高速かつクラッシュすることなく演算できる分散処理の仕組みも広がっています。

 大量のデータを集めやすく、ためやすくなり、処理技術も研究が進んでいます。しかしそれを日々のビジネスで実行できる人材の教育が追いついていない。そのため、人材不足の問題が顕在化しているのです。