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フランスKnowMade*1は、特許と科学的情報の分析に特化した調査/コンサルティング会社である。各国の特許出願内容や取得特許から巨視的な特許傾向であるパテントランドスケープ(特許景観)を導き、競争環境と技術開発内容を理解することを得意とする。本コラムでは、同社が手掛ける調査の中から旬な技術の話題をお届けする。今回のテーマは、スウェーデンの電気自動車用電池メーカー、Northvolt(ノースボルト)が、イオン液体電池ベンチャー、米Cuberg(キューバーグ)を買収した狙いについてである*2。ノースボルトは2021年3月にドイツVolkswagen(VW、フォルクスワーゲン)と電気自動車(EV)向けの電池に関して、140億米ドル(1兆5400億円、1米ドル=110円換算)の供給契約を結んだことを発表している。(日経クロステック)

*1 KnowMadeのWebサイト: https://www.knowmade.com/ *2 本記事の原文: Northvolt diversifies its patent portfolio with the acquisition of lithium-metal battery start-up Cuberg

 スウェーデンの電気自動車(EV)用電池メーカー、Northvolt(ノースボルト)がイオン液体を持つリチウム(Li)金属電池に特化した米Cuberg(キューバーグ)の買収を2021年3月10日に発表した プレスリリース 。この買収は、ノースボルトが高エネルギー密度Liイオン電池に関する知的財産(IP)とノウハウを獲得することを意味し、強いポジションを得ることが予想される。

 ノースボルトは、EV用Liイオン電池を専門とする開発・製造会社である。2015年にPeter Carlsson(ピーター・カールソン)氏(米Tesla(テスラ)の元幹部)によってSGF Energy(SGFエナジー)としてスタートし、ヨーロッパの再生可能エネルギーへの移行を支援するため、世界で最も環境に優しい電池を造ることを使命として設立された。ノースボルトは創設以来、欧州投資銀行やドイツBMW、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)、スウェーデンScania(スカーニア)、スウェーデンVattenfall(ヴァッテンフォール)、スイスABB、ドイツのSiemens(シーメンス)などの多くの民間企業からの出資を得た。

 ノースボルトは、現在最も注目を浴びてる陰極材料の1つであるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)陰極材料を用いてLiイオン電池を開発している。同社は、材料の製造から電池セルやモジュールの製造まで、サプライチェーン全体をコントロールして電池を生産する。「NMCのLiイオン電池は、市場と関連特許の両面でし烈な競争下にあり、電極および電池の材料製造と利用のサプライチェーン全体に関連した5000以上の特許ファミリーが市場に存在している」と、ノーメイド のバッテリー兼材料分野担当の技術及び特許アナリストのFleur Thissandier(フルー・シスアンディエ)博士は説明する。このような競争環境下で、ノースボルトの戦略は、まず自社製品の開発に関する特許ライセンス契約を取得し、その後、独自の研究開発を開始するというものである。

 同社は2018年と2019年に2つの特許ファミリー(複数の国で出願された単一の発明)に分類された最初の特許出願を行い、それらのすべてがまだ登録中である。第1の発明は、Li遷移金属複合酸化物と、その製造方法(WO2020/074676)に関連したもので、NMC材料を含む幅広い材料組成を主張している。もう1つの発明は、電池の再生利用における陰極材料(主にNMC)の復帰プロセスに関連したもので、特にリサイクルプロセス中のアルミニウムと鉄の除去(WO2020/212363)に関連したものだ。この特許の出願は、Liイオン電池再生利用のノースボルトの投資と同時に行われている。2020年にノルウェーHydro(ハイドロ)とノースボルトは、ノルウェーにEV用のバッテリーリサイクル施設を2021年につくるために、合弁会社の HydroVolt(ハイドロボルト)を設立している。 

 スタンフォード大学の材料科学部門から2015年にスピンオフした米国スタートアップ、キューバーグの買収は、ノースボルトにとって、2021年における「環境に優しいバッテリー」開発に向けたもう1つの大きなステップである。キューバーグはLi金属陽極とイオン液体電解質(溶融塩、主に有機塩で、融点が100°C未満の「グリーン」電解質)を組み合わせた次世代電池技術の製品化を目指している。

 イオン液体は10年以上にわたり電池用途に想定されており、現在では高度で安全なLiイオン電池のための電解質として非常に注目されている。イオン液体の多くは、分子設計によって制御される変動率を有する有機塩である(図1)。具体的には、ピリジニウム(pyridinium、PY)、イミダゾリウム(imidazolium 、IM)、ピロリジニウム(pyrrolidinium、PYR)、アンモニウム(ammonium)、スルホニウム(sulfonium)などの有機カチオンと、BF4、PF6、トリフレート(triflate、CF3SO3)およびビス(トリフルオロメタンスルホニル) イミド (bis (trifluoromethanesulfonyl) imide、TFSI) 、(CF3SO2)2N)などの無機陰イオンで構成される。

図1:Cubergの出願特許US20200194786
図1:Cubergの出願特許US20200194786
他の非実施形態の先行技術電解質と比較して、1〜4の好ましい実施形態の電解質システム(出所:出願資料)
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