フランスKnowMade(ノーメイド)*1は、特許と科学的情報の分析に特化した調査/コンサルティング会社である。各国の特許出願内容や取得特許から巨視的な特許傾向であるパテントランドスケープ(特許景観)を導き、競争環境と技術開発内容を理解することを得意とする。本コラムでは、同社が手掛ける調査の中から旬な技術の話題をお届けする。今回は、シリコンカーバイド(SiC)の結晶成長からデバイスパッケージングまでを手掛けられるようになった中国企業サンアン・オプトエレクトロニクス(三安光電)について分析した*2。(日経クロステック)
*1 KnowMadeのWebサイト https://www.knowmade.com/ *2 本記事の原文: https://www.knowmade.com/press-release/news-mems-opto/sanan-optoelectronics-a-new-entrant-reshuffling-the-cards-in-the-global-sic-patent-landscape-and-in-the-chinese-sic-power-device-market/中国最大のLEDチップメーカーであるサンアン・オプトエレクトロニクス(三安光電)は、今後10年間の中国自動車市場の需要の増大を予想して、シリコンカーバイド(SiC)デバイスの主要なサプライヤーになるための戦略を加速させている。
結晶成長からデバイスパッケージングまで、SiCデバイスの製造のあらゆるステップを処理できる長沙(中国湖南省)のメガファブのプロジェクトは、同社が子会社である湖南サンアン・セミコンダクター(湖南三安半導体)を設立した2020年の1年前に始まった。そこから1年も経たないうちに、湖南三安半導体はサイトの第1段階の完了を発表し、その結果、月産1万5000枚の SiCウエハーの生産キャパを得た。このことは、三安光電が2014年に新設された子会社のサンアン・インテグレッドサーキット(三安集成電路、Sanan IC)を通じて、化合物半導体エレクトロニクスデバイス開発活動を開始した成果として重要な出来事である。LED用III-V材料に開発された古いエピタキシャル成長技術が活用できそうだが、大口径および高品質のSiCバルク単結晶の成長では使えない。この技術取得は、SiC基板特許の中で最も実績あるプレーヤーの米Cree/Wolfspeed(クリー/ウルフスピード)や日本製鋼でも数十年の研究開発(R&D)を必要とするほど難しい。
三安光電は、SiCウエハーの製造にどのような技術を持っているのだろうか。「特許活動、具体的には、2018年に6インチSiC ファウンドリー事業を開始した三安集成電路 の2016年からの特許出願に、いくつかの手がかりが見つかる」と、KnowMade(ノーメイド)の化合物半導体及びエレクトロニクス分野を担当するテクノロジー&パテントアナリストのRémi Comyn(レミ・コミン)博士は述べる。また、KnowMadeは、三安光電の子会社である湖南三安半導体とNortel New Materials(Nortel、福建北電新材料科技)の特許活動を分析したが、両者ともバルクSiCおよびSiCエピウエハーを含むSiC基板に関する特許ランドスケープ(特許景観)の新規参入者である。Nortel は2019年STMicroelectronicsに買収されたスウェーデンNorstel ABと間違えないでほしいが、 2017年に設立され、中国の泉州(中国福建省)に拠点を置いているスタートアップ企業で、物理的蒸気輸送(PVT)プロセスに基づいてSiC結晶成長技術を開発している。
Nortelは2020年8月に湖南三安半導体による買収時に、6インチSiCウエハーで年間3万6000枚の生産キャパを持つと思われる既存の生産拠点に9000万米ドルを投資する予定であった。また、図1と図2に示すように、Nortelは、SiC基板(バルクSiCの成長方法とデバイスを含む)および他のSiCウエハー処理方法(SiC研磨用のツールや消耗品を含む)に関する80以上の特許出願を既に登録していた。バルクSiC特許の中で、30以上の発明が成長デバイスに焦点を当てたものに対して、10の発明がSiC仕上げに関連したものになっている。Nortelの買収により、三安光電は60以上の追加の特許と20以上の保留中の特許を得ることになり、88の特許ファミリー注1)の分類を持つことにになった。
さらに、図1にあるように湖南三安半導体は2020年7月の創業から特許出願を開始し、1年間で26件の国内特許出願を行った。興味深いことに、図2では、新しく生まれ変わった垂直統合型の企業としての特許活動を示しており、SiC結晶成長では13件の特許ファミリーを持ち、その他SiCウエハー加工ツールでは洗浄および研磨装置またはSiC粉末の製造装置を含んで13件の特許で、強く特許活動を推進してきていることを示している。Nortelと同様に、湖南三安半導体の発明は、SiC結晶成長装置や他のSiCウエハー処理ツールに焦点を当ている。
またSiCエピウエハーに関連する三安光電の特許はすべて、三安集成電路によって出願されている。すなわち、エピタキシャル成長装置に関する2つの特許 と、SiCベアウエハーまたはSiCエピタキシャルウエハーの薄化と仕上げに関連した特許、SiCベースのBJT(バイポーラジャンクショントランジスタ)またはSiCベースのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のエピタキシャル層に関する特許と、合わせて4つの特許になる。三安集成電路は、SiCデバイスに関連する特許出願を行う三安光電の子会社の中で唯一の特許譲受人であり、2016年以降、少なくとも20の特許ファミリーを出願しており、SiCダイオードに関連する12の発明とSiC MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)、特にプレナー型MOSFETに関連する5つの発明が提出されている。SiCデバイス処理に関連する他の特許として図2に分類されるいくつかの追加出願特許は、レーザー技術を使用したウエハーのダイシング処理や、後のアニーリング中に劣化させることなく同じウエハー上にn型およびp型オーミックコンタクトを形成する処理のものである。