フランスKnowMade(ノーメイド)*1は、特許と科学的情報の分析に特化した調査/コンサルティング会社である。各国の特許出願内容や取得特許から巨視的な特許傾向であるパテントランドスケープ(特許ランドスケープ)を導き、競争環境と技術開発内容を理解することを得意とする。本コラムでは、同社が手掛ける調査の中から旬な技術の話題をお届けする。今回は、全固体電池の特許に対する日本企業の立ち位置を調べた*2。(日経クロステック)
*1 KnowMadeのWebサイト https://www.knowmade.com/ *2 本記事の原文: https://www.knowmade.com/press-release/news-power/press-release-news-power-will-japanese-companies-win-the-race-on-solid-state-batteries-heres-what-the-patents-tell-us/電気自動車(EV)の開発競争に伴い、バッテリー分野の研究開発活動が活発化している。中でも、無機固体電解質を有する固体リチウムイオン(Liイオン)電池の分野、いわゆる全固体電池は、高エネルギー密度、かつ急速充電が可能で、安全であることから、開発競争が激しい。全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使用している可燃性液体電解質を固体電解質に置き換える。その結果、より安全で特性が改善された電池になり得る。しかしながら、既に実用化されている液体/ゲル化された電解質の電池や薄膜全固体電池に使用される製造プロセスと材料は、大規模な(バルク)全固体電池にとって最適ではない。そのため、大規模な全固体電池を得るために、性能、安定性、コストの面で市場の要求に合うような新しい材料とプロセスを開発する必要がある。
現在、バルク全固体電池の性能を向上させるための開発には、3つの主な軸がある。固体電解質性能の向上、電極/電解質界面の改善、工業的に大量生産できる材料/セルの組み立て工程の開発、である。最近では、多くの企業が全固体電池のプロトタイプを発表し、2025年までの製品化とEVへの搭載を発表している。
そこで、特許情報から、この分野に関わるさまざまなプレーヤーの位置付けについて考察してみた。日本企業は固体リチウムイオン電池の特許ランドスケープ(特許景観)を支配してきたが、過去3年間で中国における特許活動が爆発的に増加し、その一方で自動車メーカーや数多くの固体リチウムイオン電池専業企業が電池市場に新規参入してきている。日本企業は、全固体電池の競争において、特許のランドスケープの中で最先端を進むことができるのだろうか。
「特許ランドスケープ分析は市場調査を補間するもので、競争環境と技術ロードマップを深く理解し、最先端技術開発を追尾し、将来における技術採用の予測や競合他社の戦略を理解するのに役立つ。特許ランドスケープ分析を、標準的な市場分析では把握できない企業や、技術的解決策や、戦略などを明らかにする」と、ノーメイドのバッテリー及び材料を専門とするテクノロジーと特許分析のアナリストのフルール・シスサンディエ(Fleur Thissandier)博士は述べる。
「無機電解質系の固体リチウムイオン電池の特許ランドスケープを分析すると、その活動は盛況を呈していて、1000を超える異なる実在組織から7300以上の発明の特許出願がある」と、フルール・シスサンディエ氏は述べている。日本企業は2017年まで固体リチウムイオン電池の特許ランドスケープを支配してきた。しかし、過去3年間では、中国における特許活動が爆発的に拡大している。例を挙げるとQingTao Energy、SVOLT、COSMX、CATL、Zhejiang Funlithium New Energy(Ganfeng Lithiumの子会社)、Tianmu Energy Anode Material、New Keli Chemical、Lishen、Seres/SF Motors(Sokonの子会社)、Baochuang/Bootory(Baoneng GroupのR&D部隊)、BOE Technology、China Lithium Battery Technology(CALB)、 SAIC Motor、RUISAIDE Energy Technology、WeLion New Energyなど、数多くの中国の研究機関や企業が参入してきている。他の注目すべきIP新規参入会社としては、米Solid Power、イスラエルStoreDot、米BlueCurrent、米IBM、昭和電工、ENEOSホールディングス、太平洋セメント、SOKEN、ドイツVolkswagen、フランスRenault、ドイツVitesco Technologiesなどである。