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カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の追い風を受けて、バイオプラスチック(以下、バイオプラ)への関心が高まっている。日本でも再ブームの兆しが見られる一方で、欧米に比べて後れを取っているという厳しい声も上がる。植物由来・生分解性樹脂であるポリ乳酸(PLA)の射出成形の分野で世界をリードする、小松技術士事務所所長の小松道男氏と、日精樹脂工業社長の依田穂積氏、トタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高武志氏の3人に、バイオプラの実用分野における日本の針路を語ってもらう。

座談会のメンバー
座談会のメンバー
世界で注目される、PLAの射出成形・金型技術の第一人者である小松氏(左)と、同所長の技術的なアイデアを基に、世界に先駆けてPLA向け射出成形機を造った日精樹脂工業社長の依田氏(中央)、そしてその射出成形機に合わせた成形性に優れるPLAを提供するトタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高氏(右)の3人。日本が世界をリードするPLAの射出成形技術は、小松所長の開発アイデアと日精樹脂工業の機械、トタルコービオンPLAジャパンの材料の3つが融合して実現した。(イラスト:穐山 里実)
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世界が脱炭素に向かう速度を上げる中、材料分野ではバイオプラへの注目度が増しています。

小松氏(開発アイデア)
小松氏(開発アイデア)

 ようやく日本にも本格的にバイオプラの波が来たのではないでしょうか。最初に欧州、次いで米国という感じで、欧州の各国と米国がバイオプラの普及に向けて尽力しています。

 材料メーカーが立地している欧米の地域では、議論のテーマが「どうやってバイオプラを製品化していくか」から、普及においてネックとなる「価格(コスト)の部分にどう手を打つか」に移っています。具体的には、化石資源由来プラスチックに課税したり、用途によっては使い捨てを禁止する法令を整備したりするなどして、ここ5年くらいバイオプラの普及に向けた活動を積極的に展開しています。

 これに対して日本は、バイオプラの中でも生物(植物)由来であり、かつ生分解性をも備えたPLAを中心に開発を進めてきた材料メーカーが、PLA事業から撤退してしまいました。あまり盛り上がれないまま、「欧州や米国とは違って、まだ日本にはそれほどバイオプラは必要ないんじゃないか」「値段も高いし」などと言い訳しながら、欧米の動向を眺めていたのではないでしょうか。結果、この5〜6年の間に日本は、特に欧州に対してバイオプラの製品化や使い方、回収などの部分で大きく水をあけられてしまったのではないかと感じています。

日精樹脂工業はPLA専用の射出成形機を販売しています。反響はいかがですか。

依田氏(機械)
依田氏(機械)

 引き合いや検討依頼がかなり多くきています。カーボンニュートラルやSDGs(持続可能な開発目標)への意識が高い人たちを顧客とする化粧品の容器メーカーはもちろん、最近では飲料・食品や医薬品、健康食品の容器メーカーや、消毒や抗菌などの日用品の容器メーカーの問い合わせが増えています。他にも、ホテルや外食産業の容器とか歯ブラシを造るメーカー、キャンプ用品を扱うアウトドアメーカーのなどからも声が掛かります。名前を挙げるときりがありません。

 引き合い自体は4~5年ほど前からあるのですが、新型コロナウイルス禍に入った2020年からは、キャンプ用品や医薬品、デリバリーのカトラリーや皿を扱う企業からの引き合いが特に増えています。

PLAでも世界をリードする欧州

材料視点から見て、PLAの世界動向をどう見ていますか。

金高氏(材料)
金高氏(材料)

 世界では中国が圧倒的な購買力を持っています。中国では使い捨てのレジ袋などが禁止になっている省があり、PLAを使わざるを得ないという現実があります。ゴミ問題が深刻なので、自然に(土に入れると微生物の働きで二酸化炭素と水に)分解する生分解性プラスチックが必要だという背景が同国にはあります。

 日本の現状としては、だいぶバイオプラの認知度が上がってきたなと感じます。実際、日本バイオプラスチック協会の会員数は数年前に比べて5割くらい増えています。現在の会員は300社を超えています。自分たちもバイオプラ製品を造りたい、売りたいという会社が増えているのだと思います。

 オランダ・トタルコービオンPLA(Total Corbion PLA)は、PLAの専業メーカーです。タイに工場があり、現在の生産量の半分ほどが欧州市場向けで、残りがアジア市場向けです。米国には当社以外にもバイオプラメーカーがあるので、米国市場ではあまり売り上げが大きくありません。

 ただし、中国以外のアジア市場にPLAで成形した製品を使う顧客が欧州市場並みにいるかというと、そういうわけではありません。例えば、台湾に輸出されるPLAは製品に加工された後、相当な量が欧米に輸出されています。想像通りかと思いますが、やはり現在のバイオプラの主な消費地は欧州です。

 では、欧州ではバイオプラがものすごく歓迎されているかというと、実は事はそう単純ではありません。バイオプラも、いわゆる「プラスチックバッシング」の延長線上にあり、なんだかんだ言ってたたく人もいます。ただ、欧州は何かを決めたからと言って絶対視することはなく、やってみて駄目だったら、またルールを変えてみようといった柔軟性があります。そうした意味で、現実的な落とし所としてバイオプラがあると思っています。

 確かに欧州はプラスチックのマテリアルリサイクルが非常に進んでいます。日本は燃やしています。その点では、バイオプラかどうかは関係なく、プラスチックの最終的なエンドライフとしては、欧州の方が一歩進んでいると思います。

 生分解性プラスチックの導入度合いに関しては、日本は欧州に大きく遅れています。しかし、これは決して日本人の環境意識が欧州に比べて劣っていることを示しているわけではありません。日本では自治体でゴミを分別回収して捨てています。欧州ではマテリアルリサイクルしている一方で、街の中は結構、ゴミが目立っています。ゴミがきちんと処理されていないため、環境を守るには生分解性プラスチックが欧州には必要というわけです。つまり、日本は遅れているというよりは、これまで生分解性プラスチックの必要性をあまり感じていなかったという面があるように思います。

 注意すべきは、フランスなどでワンウェイの使い捨て容器などは禁止にしようという動きが出ていることです。例えば、コーヒーカップの使い捨て容器を禁止し、バイオプラにするという動きです。他にも、レジ袋は全て生分解性プラスチック製でなければならないと決めた国もあります。日本でも21年3月に「プラスチック資源循環促進法案」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案)が閣議決定され、使い捨てのスプーンやストローなどの削減を飲食店などに求めると報じられています。