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カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の追い風を受けて、バイオプラスチック(以下、バイオプラ)への関心が高まっている。日本でも再ブームの兆しが見られる一方で、欧米に比べて後れをとっているという厳しい声も上がる。植物由来・生分解性樹脂であるポリ乳酸(PLA)の射出成形の分野で世界をリードする、小松技術士事務所所長の小松道男氏と、日精樹脂工業社長の依田穂積氏、トタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高武志氏の3人が、PLA成形の世界最先端情報について語る。

座談会のメンバー
座談会のメンバー
世界で注目される、PLAの射出成形・金型技術の第一人者である小松氏(左)と、同所長の技術的なアイデアを基に、世界に先駆けてPLA向け射出成形機を造った日精樹脂工業社長の依田氏(中央)、そしてその射出成形機に合わせた成形性に優れるPLAを提供するトタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高氏(右)の3人。日本が世界をリードするPLAの射出成形技術は、小松所長の開発アイデアと日精樹脂工業の機械、トタルコービオンPLAジャパンの材料の3つが融合して実現した。(イラスト:穐山 里実)
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植物由来であり、かつ生分解性をも備えるPLAの成形に関して、世界最先端の情報を教えてください。

小松氏(開発アイデア)
小松氏(開発アイデア)

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で国際展示会の中止が相次いでおり、直近で最も大きな展示会は2019年10月にドイツで開催されたプラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」となります。来場者と出展規模、展示内容で世界トップを維持しているこの展示会に、欧州のパッケージや食品容器関連企業がPLAでできた製品を展示しました。

 最も多かったのは、卵のパックなどの真空成形品です。シート状のプラスチックを加工して造っていきます。例えば、オランダ・トタルコービオンPLA(Total Corbion PLA)の製品では、コーヒーのカプセルやヨーグルトのカップなど豊富なバリエーションの食品容器が既に実用化されて市場に流通しています。

 次に目立ったのは、ミネラルウオーターのボトルのブロー成形品です。世界で10社以上が実際に水を入れて商品として販売しています。100%のPLAではなくいろいろなものを混ぜて使っており、改良の途上ではあるのですが、それでも、PLAが支配的な割合を占めていました。こうしたPLAのブロー成形品や真空成形品が欧州や米国では流通し始めているのですが、日本企業ではまだ見られません。

 ただし、射出成形で造る、肉厚が厚く強度があるPLAの成形品は、まだ欧米の企業でもほとんどできていません。これは成形技術が非常に難しいからです。普通の射出成形機を改良したところで、うまくいきません。それを可能にしたのが、私と日精樹脂工業で一緒に開発したPLAの「CO2超臨界成形」です。

 これは、溶融したPLAに超臨界状態の二酸化炭素(CO2)を瞬時に溶解させて金型に射出する成形技術となります。この成形技術は、射出成形機や成形技術、金型の技術、ホットランナーなどの技術を組み合わせて成り立つ生産システムです。総合力が物を言うこの生産システムを開発できたことにより、PLAの成形技術は日本が世界で最も進んでいると言えます。

 ところが残念なことに、この成形技術を使って製品を造ろうというユーザーが日本にはまだ少ないのが現状です。材料は海外が強く、生産技術は日本が優れている、そして製品化に積極的なユーザーが海外にいるという現実を踏まえると、材料と生産技術を1つのパッケージにして世界に販売することが、新しいビジネスモデルになるのではないかとも思っています。

成形機本体と共に重要な周辺技術

世界一のPLA成形技術を可能にする射出成形機をなぜ開発できたのですか。

依田氏(機械)
依田氏(機械)

 PLA専用の射出成形機「N-PLAjet」の成形技術は小松先生の発想から生まれたものです。それを機械的に具現化するところを一緒に開発しました。

 PLAは流動性が非常に悪いプラスチックです。加えて、結晶化の際に急激に収縮し、金型に食い込んで縮んでいくため、離型性に劣るという特性があります。生産性を上げるには流動性は高い方がよいし、金型から抜く時には、あまり収縮せずに抜けるのがよい。つまり、PLAでは両方ともネガティブな方向にあるので、それをいかに汎用プラスチックと同様に成形できるようにするかが、N-PLAjetのキーポイントでした。

PLA専用の射出成形機「N-PLAjet」
PLA専用の射出成形機「N-PLAjet」
(写真:日精樹脂工業)
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小松氏(開発アイデア)
小松氏(開発アイデア)

 日精樹脂工業は射出成形機のプロフェッショナルですが、その周辺技術にも長(た)けています。具体的には、材料を乾燥させたり、乾燥させた後でうまく射出成形機に導いていったり、金型の温度を適温にするために水温を調節したり、といった技術です。こうした周辺技術まで習得していないと、PLA成形品の大量生産はできないのです。

 この点について同社は、成形システムという形で実現しています。すなわち、射出成形機を核に超臨界機の装置や乾燥、材料の供給システム、金型の温度管理システム、ホットランナーを全てセンシングしたり情報を共有したりして、欧州の中心である「EUROMAP(ユーロマップ)」という規格に合わせてIoT(Internet of Things)化を実現しているという点が非常に先進的だと思います。

依田氏(機械)
依田氏(機械)

 確かに当社は射出成形機メーカーですが、開発に成功したのは、特に金型技術と材料の温度制御技術の貢献が大きかったと考えています。つまり、いかに射出成形機をハブとして、周辺機器で最適条件を出していくかが大切なのです。言い換えると、射出成形機以上に、加工環境を整えることが重要だとも言えます。実際、射出成形機だけではPLAを成形することはできません。