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カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の追い風を受けて、バイオプラスチック(以下、バイオプラ)への関心が高まっている。日本でも再ブームの兆しが見られる一方で、欧米に比べて後れをとっているという厳しい声も上がる。こうした中、日本発のある成形品が世界を驚かせる。PLAでできた「シャンパングラス」だ。植物由来・生分解性樹脂であるポリ乳酸(PLA)の射出成形の分野で世界をリードする、小松技術士事務所所長の小松道男氏と、日精樹脂工業社長の依田穂積氏、トタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高武志氏の3人が、このシャンパングラスの開発の経緯を語る。

座談会のメンバー
座談会のメンバー
世界で注目される、PLAの射出成形・金型技術の第一人者である小松氏(左)と、同所長の技術的なアイデアを基に、世界に先駆けてPLA向け射出成形機を造った日精樹脂工業社長の依田氏(中央)、そしてその射出成形機に合わせた成形性に優れるPLAを提供するトタルコービオンPLA日本連絡事務所代表の金高氏(右)の3人。日本が世界をリードするPLAの射出成形技術は、小松所長の開発アイデアと日精樹脂工業の機械、トタルコービオンPLAジャパンの材料の3つが融合して実現した。(イラスト:穐山 里実)
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世界を驚かせたPLA製シャンパングラス
世界を驚かせたPLA製シャンパングラス
(写真:日精樹脂工業)
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プラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」では“事件”が起きたと聞きます。日精樹脂工業が出展した「シャンパングラス」が、世界のプラスチック業界を驚かせたと。

小松氏(開発アイデア)
小松氏(開発アイデア)

 初日から1週間、シャンパングラスを大量に造って来場者に見せました。どこからどう見てもガラス製シャンパングラスにしか見えない高い外観品質なのに、実はサトウキビ由来のPLAでできている。しかも、グラス部分は0.65mmの薄さ。来場者の誰もが驚きの声を上げていました。

 ドイツやイタリア、米国、カナダと、世界の主要な射出成形機メーカーの技術者まで、こぞって「見せてください」と尋ねてきました。技術者としては完敗を認めたようなものではないかと思っています。頭を下げて見せてくださいと言うので、どうぞと言って見ていただきました。あまりに気に入ったのか、自社の展示ブースに勝手に陳列する海外企業がたくさんあったほどです。K2019の中で、それほど突出した出展だったわけです。

なぜ、シャンパングラスを展示しようと思ったのですか。

依田氏(機械)
依田氏(機械)

 あれは私の趣味で造ったところがあります。当初は何かの工業部品を造ると社員が言っていたので、「そんなつまらないのはやめよう。ドイツの展示会で、みんなでシャンパンを飲もう」と言って造ったのです。

 展示会では通常、企業はさまざまな機械を出展します。しかし、当社はあの展示会に、シャンパングラスを造る射出成形機しか展示しませんでした。来場者に、「シャンパングラスを売っているのか、機械を売っているのか分からない」と言われたほどです。もちろん、機械だと答えていたのですが、引き合いの中にはシャンパングラスを欲しいと言う人がたくさんいました。それだけ商品的にも完成していたんだろうなと思っています。

 技術的には、PLAの成形において最も難しい領域を攻めようと決めて設計に着手しました。1つが透明にすること。もう1つが極限まで薄くすることです。生分解性プラスチックとしてどこまで形を作れるかに挑んでみようと「CO2超臨界成形」技術を投入し、どこまで薄く伸びるかについて細かくデータを取って、どの条件が品質的にも生産性的にも最も適しているかをものすごく突き詰めていったのが、あのシャンパングラスなのです。ユニークな展示品に感じるかもしれませんが、我々にとっては血と涙の結晶です。そのくらいの技術と工数は投入したと思っています。

大変な苦労だと思いますが、その中でも難しかったのはどこですか。

依田氏(機械)
依田氏(機械)

 我々が造ったシャンパングラスはフルート型と呼ばれるもので、カップ部分の先がすぼまっているアンダーカットに近い形状となっており、金型からとても抜きにくいのです。この形状で金型から抜くのは非常に大変でした。当初は、本当に抜けるのかと心配になったほどです。

 しかも、成形サイクルの短縮を狙って多数個取りにしましたから。ゲートバランスや温度のバランスも全て均一にしなければならない。しかも肉厚が薄いため、どこかのキャビティーに温度変化があると、成形品に穴が開いてしまうのです。こうした厳しい条件の中で、安定的に成形し続けるというのが最も難しかった点です。

* カップが8個で脚が4個。