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 脳とデバイスをつなぎ脳活動の情報を活用する技術のブレインマシンインターフェース(BMI)。BMIを治療やリハビリに応用する研究開発が再び注目を集めている。きっかけはイーロン・マスク氏が2016年に設立したベンチャー企業の米Neuralink(ニューラリンク)だ。設立からわずか数年で、脳活動を計測するための小型埋め込み型デバイスを発表。実際にブタやサルに移植して動物実験を進めている。

 「Neuralinkは驚くべきスピードで開発を進めている。多額の研究費と一線級の研究者の参画により、昔から研究されてきた複数の要素技術を1つに合体させ、実用化を見据えたレベルに到達させた」と話すのは、体内埋め込み型血糖値センサーや超小型の給電技術などの研究を手掛ける東京工業大学 科学技術創成研究院の徳田崇教授だ。

 BMIを医療分野に応用する例としては、脳活動の情報を計測した結果に応じて体外の装置を動かしたり、切断された体内の神経回路を人工的につないだりすることなどが想定されている。例えばロボットアームを自分の意思で制御したり、自分の意思を外部の装置を通じて相手に伝えたりするほか、損傷した神経系を補うことでまひした手足を動かせるようにする。

 Neuralinkをはじめ米国の多くの研究では、脳に多数の電極を差し込んで、神経細胞の活動を測定する技術を用いている。脳活動の基本となる神経細胞の活動を直接的に計測するため、データの精度が高く解析しやすい。ただし、脳に多数の電極を刺すため出血しやすいなどのハードルがある。同社は脳への負担を抑えながら定められた箇所に電極を高精度に埋め込むため、専用の手術支援ロボットを活用する方針だ。

大阪大学で実施しているBMI研究の概要
大阪大学で実施しているBMI研究の概要
(出所:大阪大学)
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 日本では脳活動の計測を目的とした埋め込み型デバイスの中でも、低侵襲な技術の実用化の機運が高まっている。脳に電極を差し込むタイプではなく、頭蓋骨と脳の間に複数の電極が搭載されたシートを置き、そこから脳活動を計測する。埋め込み型のBMIの中でも侵襲性が低く、長期間安定して脳活動を計測できるという。これまでは脳に直接電極を差し込むタイプと比較して得られるデータの精度が低いとされていた。しかし「複数の電極を高密度に並べることで、ほぼ同等の精度が得られることが分かってきた」(BMIの研究開発を手掛ける大阪大学大学院医学系研究科の平田雅之特任教授)。