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ALS患者を対象としたデバイスを開発

 2020年3月、脳表のシート状電極から脳活動を計測することで難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の意思伝達を可能にする大阪大学発ベンチャーのJiMED(ジーメド、⼤阪府吹⽥市)が発足した。21年3月には大阪大学ベンチャーキャピタルなどから合計約2億円の出資を受け、現在は医療機器の承認取得を目指し企業治験の準備を進めている。

 JiMEDが開発を進めるデバイスは、大阪大学大学院の平田特任教授らが開発した技術が基になっている。脳活動を計測するために脳波を計測するシート状の電極と、得た脳波を増幅させるための集積化アンプ、ワイヤレスデータ通信、ワイヤレス充電などのモジュールから構成される。体外にデータ受信機さえあれば、今のところ1回の手術で5年間ほど継続して脳波を計測し続けられる。

大阪大学で開発された低侵襲型BMIのイメージ
大阪大学で開発された低侵襲型BMIのイメージ
(出所:大阪大学)
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 想定される使い方はこうだ。手術で患者の脳の表面に、複数の電極が搭載されたシートを置き脳波を計測する。電極と一緒に頭部に埋め込んだ小型のデバイスが、計測した脳波をワイヤレス通信機で外部のコンピューターに送達。コンピューターが脳波を解析し、意思伝達装置を動かす。「電極とデバイスの埋め込み手術自体は脳外科手術の中では比較的容易な手術といえる」と自身も脳外科医である平田特任教授は説明する。

 脳波を受け取ったコンピューターが意思伝達装置を制御する仕組みは次の通り。意思伝達装置は五十音が碁盤の目状に表示されており、カーソルが自動でスクロールしている。デバイスを埋め込んだ患者は表現したい文字の行や列にカーソルがスクロールされた際に、手を握るなどの動作をイメージする。すると、そのイメージで生じる脳活動を外部のコンピューターが読み取り、意思伝達装置上で伝えたい文字を確定する。脳活動の計測結果を、意思伝達装置を操作するスイッチ代わりに利用するわけだ。

 「患者がイメージしてから0.5秒くらいの早さで意思伝達装置を動かす必要がある。非侵襲で脳の外側から脳波を計測する方法では難しい」と平田特任教授は話す。通常ALS患者は手や足、視線、目のまばたきを使って意思伝達装置をスイッチ操作する。しかし病状が進むと、それらの動きで装置を操作することが難しくなる場合がある。「開発中のデバイスを使って自分の意思を伝えられることはALS患者の生きる希望につながる」と平田特任教授は話す。

 「意思伝達が難しくなったALS患者の中には、生きる意義を見いだせず人工呼吸器を装着しない、つまり死を選択する患者も少なくない」(平田特任教授)という。平田特任教授らが450人以上の患者を対象にアンケート調査を実施したところ、半数以上の患者から埋め込み型デバイスを使いたいとの回答を得た。「患者が周囲に意思伝達できることは非常に大きな意義を持つ」と平田特任教授は話す。

 平田特任教授は他にも、脳波を計測することで、ものを飲み込む「嚥下(えんげ)」の機能を補助するための研究も進めている。加齢による嚥下機能の低下は、場合によっては誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こし死亡の原因にもなる。脳活動を計測した結果に応じて、嚥下に関わる運動を電気刺激などで制御する技術の開発を進めているところだ。

 脳活動の計測を目的とした埋め込み型デバイスの技術は今後、さらに発展する余地がありそうだ。脳活動のデータをより詳細に得るためには埋め込む電極の数を増やすことが求められる。ただ、取得するデータ量が多くなると、今度はそのデータを素早く外部に送信するのに大きな電力を必要とする。消費電力が多くなるとデバイス本体の温度が上がりやすくなり、デバイスを置いた周囲組織が低温やけどする原因になりかねない。「低消費電力で早いデータ通信の技術が必要だ」と平田特任教授は指摘する。