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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、新型コロナ)による最初の緊急事態宣言のころから、「新規事業開発に取り組みたいが進め方が分からない」という相談を受ける機会が増えました。筆者らは、主に製造業のR&D部門(研究・開発・設計・生産技術)向けのコンサルティングサービスに携わっており、実は10年少し前のリーマン・ショックのさなかにも似た状況を経験しています。この状況を定量的に見るため、PwCコンサルティングと日経BPの協力により、新規事業についての実態調査を実施しました。

 昨今の技術革新によって事業のスピードが格段に速くなり、消費者のニーズの変化に合わせた事業の柔軟な拡張が求められています。さらに、新型コロナの拡大によって未来の不確実性は増しており、さまざまな状況に対応すべく新規事業創出の重要性が高まっています。

 ここでは、新たに実施した調査結果と、5年前(2016年3月)に実施した同様の調査との比較検証により、新規事業開発に成功する企業の共通点、これから取り組む企業が留意すべき点について、全5回で考察および提言を行っていきます。

新規事業開発はなぜ重要か

 本連載のテーマである「新規事業」とは、「既存事業」の対となる言葉で、「既存の製品・サービスを既存の市場・顧客に届ける事業(既存事業)」からの脱却を指します。

図1:既存事業と新規事業
図1:既存事業と新規事業
(出所:PwCコンサルティング)
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* 何をもって新規と見なすかの基準は業界・業種・タイミングによって異なるので、本稿では固定的な定義は設けない。

 一昔前は新規事業創出の手段としては、自社の強みである技術を生かして新しい商品やサービスを開発する、または対象市場を拡大する方法が一般的でした。例えば、フィルム事業で培ったナノテクノロジーを生かして医療品・化粧品事業に参入した事例はよく知られています。昨今では、一口に技術といっても、従来型の基礎技術に加えてIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)をはじめとする最新技術も駆使しなければなりません。それらの技術は、製品そのものだけでなくマーケティングや販売にも活用されており、多様化する顧客ニーズへの対応に貢献しています。

 自社のみの取り組みだと十分な成果が得られず、社外との連携を模索する企業も増えています。具体的には、他社(特にベンチャー企業)と協業するオープンイノベーションや、技術や人材などの経営資源をそのまま取り入れるM&Aなどです。

 このように、企業にとって大きなチャレンジとなる新規事業の取り組みですが、そもそも予算・工数を投入してまで取り組む必要があるのかを振り返っておく必要はあるでしょう。1つの客観的な指標として、世界の企業時価総額ランキングを見てみましょう。1990年代、上位には日本企業を中心に、金融機関や自動車といった伝統的な企業が名を連ねていましたが、2020年には大きく様変わりしてGAFAをはじめとするテクノロジー企業が台頭しました。

 このような企業が投資家から人気を集めているのは、「新たな商品・サービスの開発や市場開拓に積極的にチャレンジして新規事業を創出している」ため、今後の持続的な成長を期待されているからではないでしょうか。一方、既存事業に固執したばかりに衰退した企業は数多くあります。少し古い事例ですが、前述のフィルム業界では、デジタル化の波に乗り切れなかった海外巨大企業が破綻に追い込まれています。

図2:新規事業の創出により市場をリードするテクノロジー企業
図2:新規事業の創出により市場をリードするテクノロジー企業
(出所:PwCコンサルティング)
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 これはテクノロジー企業に限った話ではありません。豊富な資源を持ち、現在もなお高い企業価値を保つ資源会社でさえ、昨今のエネルギー転換(脱炭素化)への対応を誤ると衰退していく恐れがあります。また、自動車メーカーは、CASEやMaaS、さらにはスマートシティーのように、生き残りをかけて従来の領域ではない分野まで視野を広げつつあります。VUCA〔変動・不確実・複雑・曖昧(あいまい)〕と呼ばれる大変革時代において、新規事業の創出は必須の取り組みといえるでしょう。