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1社でできることには限界がある

 こうした取り組みの背景にはドイツ拠点の存在があります。欧州では、自分たちで環境を制御するという意識が強い。ドイツDMG MORI AGでは、以前から太陽光発電などの導入を進めていました。そうした取り組みを進めてこそ世の中からの尊敬されるようになるのです*2

*2 DMG MORI AGは20年の段階でいち早くカーボンニュートラルの達成を宣言している。

 そうした活動をさらにグループ全体へと広げ、実際のCO2排出量削減とともに、洋上風力発電や太陽光発電、山林修復といった気候変動保護プロジェクトへの投資を推進しています。その結果、21年のCO2予想排出量に対応したカーボンオフセットが見込めるようになり、グループ全体でカーボンニュートラルを達成したと表明したわけです。

 当社の部品調達から商品出荷までの事業活動におけるCO2全排出量のうち、7割強は調達部品によるものです。調達部品のように自助努力だけで削減できないCO2はカーボンオフセットを利用しています。日本ではカーボンニュートラルについて「なんとか自助努力でCO2排出量を減らすべきだ」という傾向がありますが、1企業で減らせる量には限界があります。

 一方、ドイツはクリーンエネルギーへの取り組みや森林再生プロジェクトなどに投資するといったカーボンオフセットが市場として成立しています。最初にドイツの状況を目の当たりにして「これはすごい」と感じました。カーボンオフセットのクレジット取引価格も、日本と比較すると10分の1ほどと安価なのです。

最初はピンとこなかったが

 実は、私自身も最初はカーボンオフセットやカーボンニュートラルへの取り組みについてあまりピンときていないところがありました。しかし、そうしたドイツでの動きを見て、「こうやって市場を作り、お金を循環させればよいのだ」と分かってきました。ものづくりだけを考えるのではなく、社会や国全体で市場を作るところまで考えて活動するのが課題だと考えています。

 取り組んでみて初めて分かったこともあります。それは「コンテナに機械がきっちり収まるようにする」「輸送トラックの本数を減らす」「組み立て時間を短縮する」といった生産性向上の積み重ねが、カーボンニュートラルにつながるということです。“(サプライチェーン全体で)生産性を高めるほど、CO2削減になる"のです。

 例えば20年前の工作機械3台を使って加工していた3工程も、最新の5軸複合加工機なら1台で加工できます。機械が減る分、設置面積も電力消費も減り、加工時間も短縮できる。その上CO2削減になる。高性能な工作機械の提供そのものが、CO2削減につながり、ひいては、「世の中、顧客、当社、全てにとって利点があり皆がハッピーになる」取り組みと言えるのです。

グリーンな機械が競争力になる

(写真:加藤康)
(写真:加藤康)

 もちろん工作機械という製品そのものが環境負荷の低い(グリーンな)ものでなくては、いずれ事業を進めにくくなるとみています*3。将来は、グリーンな機械の導入なら金利が低くなったり、減税されたりするかもしれません。「いずれグリーンな機械であること自体が競争力になる。それなら早いうちからやっておこう」というわけで、いち早くカーボンニュートラル化を進めてきました。

*3 同社は、21年1月以降に出荷した工作機械に、カーボンニュートラルな体制で生産したことを示す独自のマーク「GREENMACHINE(グリーンマシーン)」を付けている。

 50年にカーボンニュートラル実現という日本政府の目標は長すぎます。欧州には、環境対策のさまざまな規制やルールがありますが、10年ほどの単位で厳しく目標を定めていますし、企業もそれくらいの期間で変化しています。日本も10年単位でルールや目標を定めて評価していくべきでしょう。企業も10年くらいで変わっていかなくては生き残れません。(談)

森 雅彦(もり・まさひこ)
DMG森精機 取締役社長
1985年京大工学部卒、伊藤忠商事に入社して繊維機械の営業を経験したのち、93年森精機製作所(現・DMG森精機)に入社。94年取締役。常務取締役・専務取締役を経て99年、代表取締役社長就任。2001年から日本工作機械工業会副会長。08年から京都大学経営協議会の学外委員。03年に東京大学で博士号を取得。1961年生まれ、奈良県出身。