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 異次元のペーパーレス化を支えるのが、社内外の仕事相手との業務見直しや、利用するシステムの機能・サービスに関する施策だ。大手企業は「パートナー企業との間でやり取りする紙文書を見直す」「既存システムの機能をフル活用して紙をなくす」などの奥深いペーパーレス化施策を推進している。詳しく見ていこう。

 顧客などとの契約手続きで複数のペーパーレス化施策を講じる工夫を凝らすのが損害保険ジャパンだ。

 これまで契約では保険申込書といった紙文書をやり取りすることが多かったが「コロナ下では、顧客にも代理店の担当者にとっても感染のリスクが拭いきれない。そこで非対面かつペーパーレスで契約手続きができる仕組みを複数、提供している」と損害保険ジャパンの山名明子業務改革推進部共通・収納グループ主任は説明する。

損保ジャパンはスマホで契約可

 1つが、スマートフォンを使って火災保険の契約ができる「スマホde手続き」だ。新システムを開発して2021年3月から提供を始めている。代理店の担当者は顧客に対して電話などで保険の申し込み内容を確認した後、申し込み用データを専用サイトにアップロード。すると、顧客に向けて手続き用のURLをメールなどで知らせる。顧客はスマホ画面上でURLをタップすると、システムで申し込み内容の確認や契約手続きを済ませることができる。

損害保険ジャパンのペーパーレス化施策の例。2020年以降取り組んできた。保険は非対面で契約する時代になっている
損害保険ジャパンのペーパーレス化施策の例。2020年以降取り組んできた。保険は非対面で契約する時代になっている
(画面提供:損害保険ジャパン)
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 こうした新システムに加え、既存のシステムを非対面で使える仕組みも用意した。具体的には、自動車保険と火災保険の手続きに関して、顧客と代理店の担当者が対面時に利用してきたシステム「保険手続きNavi」をWeb会議サービスと組み合わせた。Web会議サービスの画面共有機能を使って、保険手続きNaviの画面を顧客と代理店の担当者が見ながら、代理店担当者が保険の内容を説明したり、顧客と連携して契約手続きを済ませたりできるようにした。

 山名主任は「契約する保険の内容について丁寧に説明してほしいという顧客には保険手続きNavi、好きなときに手早く契約内容の最終確認をしたいといった場合はスマホde手続き、と選べるようにしている」と話す。損害保険ジャパンはこの他、電話で対応できる手続きの範囲を広げたり、申込書ファイルをメールでやり取りできるようにしたりしている。

アフラックは2.4億円分の削減

 アフラック生命保険も2020年6月から全社規模でペーパーレス化プロジェクトを進めている。保険契約の内容変更、営業マーケティング、調達購買など様々な業務でペーパーレス化を進めた結果、2020年までに2810種類の帳票を電子化できた。紙文書では3888万枚分に上り、2億4000万円分の費用を抑制できたという。

 アフラックの取り組みで特徴的なのが、保険代理店との間でやり取りする紙文書の見直しだ。

 同社はこれまでも顧客向けサイトで住所や電話番号などの変更手続きができるようにしてきたが、代理店経由での契約内容の変更手続きは紙文書が多かった。そこで代理店向け情報支援システムの機能を強化するなどして、顧客の改姓手続きや振込口座の変更など「紙を扱う件数が多いものからペーパーレス化していった」(長野史嗣保全手続きUI/UX向上トライブ デジタル手続きのUI/UX向上と利用促進スクワッド プロダクトオーナー)。

アフラック生命保険がペーパーレス化プロジェクトの中で講じた施策例とその成果。顧客や代理店、取引先とやり取りする紙もなくせる
アフラック生命保険がペーパーレス化プロジェクトの中で講じた施策例とその成果。顧客や代理店、取引先とやり取りする紙もなくせる
(画面提供:アフラック生命保険)
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 代理店向けシステムの機能強化点は他にもある。定期的に発行してきた情報誌や紙の研修資料に代えて、情報支援システム経由で情報コンテンツや研修資料データの提供を始めた。ペーパーレス化に不安を持つ代理店担当者もいたが、「社員がサイトの使い方についてオンラインでサポートするなどして不安を払拭していった」と藤島大輔マーケティング企画部マーケティング統括課課長代理は説明する。

 さらに保険代理店からアフラックへの手続きもペーパーレス化を進めている。2021年から順次、ワークフローシステムを導入している。代理店からアフラックの支社へ提出すれば済むシンプルな書類手続きの電子化から始め、「最終的には100種類ほどある紙の書類をなくす」と上野まゆみ営業業務部業務管理課担当課長は説明する。

 アフラックはこの他、電子署名サービスを導入して業務委託先と電子契約ができるようにした。さらに調達購買業務では導入済みの電子取引クラウドを利用する取引先を増やしたり、社員が立て替え精算をするときはコーポレートカードなどと経費精算クラウドを活用したりすることで、紙を扱う機会を減らしている。こうした多岐にわたる施策によって、2810種類の帳票を電子化できたわけだ。