企業はデジタルツールを使ったペーパーレス化も進められる。AI OCR(人工知能を組み込んだ光学的文字認識)などの技術をうまく使いこなす工夫で紙撲滅の果実を得た三井住友ファイナンス&リース(SMFL)と大林組の取り組みを紹介しよう。SMFLはAI OCRを「赤ちゃんレベル」から自ら内製して育てていった。大林組は建設現場の声を反映したノートアプリを継続して活用している。
SMFLは文書の読み取りにAI
明細書を見てExcelファイルに手入力する作業をAI OCRで効率化――。こんなプロジェクトを進めているのがSMFLだ。同社には、顧客企業の要望に応じて、リース物件一式のうち一部を見直して再リース料金などを計算する業務がある。リース物件の明細書などを電子化しているが、テキストデータを簡単には抽出できなかった。
この不便さを解消する目的で2020年10月、リース物件の見直しに携わる業務担当者やAI技術者など社内メンバーからなるプロジェクトを開始。2021年5月にAI OCRシステム「Easy OCR」を導入し、担当部門の社員100人弱が利用している。
このシステムを、年間およそ2000件もあるリース物件の見直し案件に適用して効率化を目指す。1件20~30分ほどのデータ入力時間を、内容確認を含めて2割程度の時間で対処できるようになった。「簡単に利用できるようにしているのでシニア層の担当者の業務も大きく改善できる」と、松田栄樹リソース業務第二部部長は話す。
このプロジェクトではAI OCRの読み取り精度を高めるため、実際の業務で扱っている書類データを読み込ませた結果をフィードバックするトライアルを繰り返した。その結果、「2021年5月までには部門全員が利用できるレベルにできた」(東山祥二リソース業務第一部部長)。
トライアルに当たって、社内のAI技術者は業務担当者に「AI OCRを赤ちゃんレベルから育てていきます」といった例えを出しながら、段階的に読み取り精度を向上させていくことを説明し、協力を得ていった。
600件ほどの文書を読み取った最初のトライアルにおける精度は70%程度で、文字の間に下線が入るなどの課題も残った。このときの業務担当者の評価は「赤ちゃんレベル」だったが、その後、急激に読み取り精度が高まった。「子供レベル」と評価された段階で下線がなくなり、最終的には認識率を90%以上にできた。
「元の文書の表では同じ列に並ぶ項目と数値を、AI OCRは別の列として認識する」といった他の課題を解消しただけでなく、人でも読み取りが難しい網掛け部分の文字も正しく認識できるようになった。業務担当者から「宇宙人の域だ」との高評価を得たという。今後はリース物件の再見直しを担当する部署以外での利用も視野に入れる。