全6359文字

 前回の執筆では、「商売として見たときのソフトウエア開発」という話をしました。今回は、それが本質的にどのようなことを指しているのかを、少し経済や会計の概念も取り入れながら考えたいと思います。

 今回は、少し専門的な言葉がたくさん出てきますが、まずは「ソフトウエア」は「資産」である、という理解を深めていきたいと思います。

 「ソフトウエアを開発する」ということが、財務諸表の何につながり、究極的にはどう企業価値に結びついていくのかが理論的に理解できるようになるかと思います。

「ソフトウエア」は「資産」である

 「資産」とは、シンプルにいうと「将来収益をもたらすもの」です。少し古典的ですが、不動産を例に考えてみましょう。

 仮に、郊外のアパートを2000万円(土地1000万円、建物1000万円)で買ったとしましょう。2階建ての建物で1つの階につき5部屋・10ユニットあるとして、月3万円の家賃収入を得られたとしましょう。年間の売り上げは360万円ですが、諸経費もかかるので、利益を計算するには費用を差し引くことになります。

 「損益計算書」などといってしまうと大げさですが、小遣い帳の延長程度に思って、年間の売り上げと費用を計算してみましょう。管理費・維持費は年間50万円と仮定します。

年間売上360万円
減価償却(建物のみ、20年定額)50万円
管理費・維持費50万円
固定資産税20万円
税引き前利益240万円
所得税(税率20%)48万円
純利益192万円

 初年度のリターンを考えると、2000万円の投資に対する純利益は192万円なので、ROI(投資利益率)は9.6%。ゼロ金利時代の現在は2000万円を銀行に預けても利息は二束三文の時代なので、このリターンは最高にいいですね(笑)。

 一方、期末時点の資産を見てみましょう。

土地1000万円
建物950万円

 ここで注目してほしい点は、会計上、土地と建物は年間192万円の利益を生み出してくれる「資産」である、という点です。2年目、3年目も同様に、利益を生み続けてくれます。これが資産の性質です。

 ソフトウエアも不動産と同様に、利益を生み続けてくれる性質を持っています。

 例えば新規事業で、何か新しいWebサービスを2000万円かけて開発したと仮定します。開発後にサービスインして、初年度の売り上げが680万円だったとしましょう。Webサービスの管理費・維持費が50万円かかったとすると、このような損益計算書ができあがります。

年間売上680万円
減価償却費(5年定額)400万円
管理費・維持費50万円
税引き前利益230万円
所得税(15%)34.5万円
純利益195.5万円

 期末時点の資産は、

無形資産(ソフトウエア)1600万円

 となり、初年度のROIは約9.775%となります。

 ちなみにソフトウエアも不動産と同様に減価償却費がかかり、多くの場合は5年間で償却になります。減価償却の額が不動産よりも大きくなりますが、こちらも同様に、会計上では年間195.5万円の純利益を生み出してくれる「資産」となります。

 ソフトウエアの新規開発にかかる費用も、会計上は資産として認められており、不動産同様に「利益をもたらしてくれる」ものとなり得ます。

 また、売り上げを直接つくるソフトウエアだけではなく、例えば社内のオペレーションを簡略化してくれるようなソフトウエアだったとしても、オペレーションコストを削減したり正確性が増したりして便益を受けることができます。受けた便益は、結果的に全体のコストの圧縮につながったり、直接的・間接的かは別にしても最終的には何らかの経済的な効果が得られたりするはずです。

 ここまで読み進めると「なるほど、確かにソフトウエアも不動産と同様に『資産』という性質を持っているね」と分かる一方で、「しかし世の中そんなにうまくいくわけないよね」と疑ってしまうのではないでしょうか。まさにその「うまくいかないかもしれない」という不確実性の種となる「リターンとリスクの関係」について、少しだけ話します。