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 1988年に日本初の全天候型多目的スタジアムとして開場した東京ドーム(東京・文京)。今、30年を超える歴史を経てデジタルトランスフォーメーション(DX)で大変身を遂げようとしている。きっかけは新型コロナウイルス感染症の安全対策だが、コロナ後も見据えたDX施策の「選球眼」は参考になる点が多い。一大プロジェクトの全貌を追った。

 「コロナ禍でも来てくださるファンのために、清潔・安全・快適なスタジアムを実現させることが急務だった」――。東京ドームで2021年3月から次々に導入している入場自動ゲートや売店での顔認証決済、トイレ混雑状況の可視化といったDXプロジェクトについて、読売新聞東京本社の黒飛陽アライアンス戦略本部次長はこう説明する。

読売新聞東京本社と読売巨人軍、東京ドーム社の3社は2020年6月から、東京ドームにおけるデジタル技術を駆使したコロナ対策を打つDXプロジェクトに挑んだ
読売新聞東京本社と読売巨人軍、東京ドーム社の3社は2020年6月から、東京ドームにおけるデジタル技術を駆使したコロナ対策を打つDXプロジェクトに挑んだ
(撮影:日経クロステック、以下同じ)
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 同社は2020年4月7日に新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発令されたのを受け、2020年6月から読売巨人軍と東京ドーム社との3社で、東京ドームにおいてデジタル技術を駆使したコロナ対策を施すDXプロジェクトを開始した。なお、東京ドーム社は2021年1月に三井不動産の子会社となり、読売新聞グループ本社が2割出資している。

 注目点は、本プロジェクトで手掛けた複数のDX施策の全てにおいて、密回避など有効なコロナ対策を打ちつつ、コロナ収束後に来場者数が回復した際にも機能し、来場者の利便性や3社の業務効率が上がるように考え抜いていることだ。

密を呼ぶ「チケットもぎり」全廃

 具体的に考え抜かれたDX施策の1つが、2021年3月から東京ドームの全入場口に設置した「入場自動ゲート」だ。ゲート前部にあるリーダーに、同じく2021年3月から導入したスマートフォンに表示する電子チケット、または紙のチケットのQRコードをかざし、認証のうえ入場する仕組みだ。

2021年3月から「入場自動ゲート」を導入し、チケットもぎりを全廃した
2021年3月から「入場自動ゲート」を導入し、チケットもぎりを全廃した
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 これまでは東京ドームのスタッフがチケットの内容を確認し、半券を回収する「チケットもぎり」の作業があったため、「ゲート付近に行列ができて密になりやすかった」(黒飛次長)。入場自動ゲートの導入で入場時間が短縮できることに加え、紙のチケットを受け渡す「接触」もなくなるメリットがある。

 コロナ後においても、入場自動ゲートが来場者の利便性を向上させる。読売新聞東京本社の小林拓実事業局野球事業部主任は、「行列を見越して早い時間から来場する必要がなくなるだけでなく、行列を待たなくて済む分、食事をしたりお土産やグッズを買ったりして東京ドーム内外で楽しく過ごせる時間を増やせる」と語る。

 運営側の3社にとっては省力化につながる。入場自動ゲート導入により入場口ごとに配置するスタッフ数を1人減らしているが、運営に支障は出ていない。黒飛次長は「人手不足でスタッフの確保が年々難しくなっている」としたうえで、「入場自動ゲートによる省人化はプロ野球などのイベントの安定運営に大きく貢献する」と期待を寄せている。

モバイルオーダーで密回避と満足度向上を両取り

 3社は東京ドーム内で提供する各種サービスにおいても、コロナ禍、コロナ後のどちらの状況も想定した施策を打っている。例えば、イベントでの楽しみの1つである売店での飲食物の販売サービスではSuicaなどにQRコード決済を加えるなどしてキャッシュレス決済の種類を拡充した。

 現金を受け渡す際の接触を避けられるだけでなく、現金のレジ締め作業を軽減できる。キャッシュレス手段を持たない来場者向けには今後プリペイド型の独自電子マネーを東京ドームで購入できるようにし、「来場者に少しずつ慣れてもらいながら、2022年以降の完全キャッシュレス化を目指している」(黒飛次長)。