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 国内で新型コロナウイルス対策のワクチン接種が軌道に乗りつつある。菅義偉首相が目標に掲げた接種回数「1日100万回」に対し、2021年5月下旬からはほぼ1日60万回以上のペースをほぼ維持する。首相官邸が2021年6月10日に公表した6月9日分のワクチン接種回数は、単純な前日比で101万1900回増となった。

 しかし予断は許さない。引き続き予約を取りにくい市町村がある一方、一部の大規模接種は予約が空いているなど需給バランスが偏り始めているからだ。日本でワクチン接種のペースをさらに加速させるために何が必要か。第1回は予約システムを対象に、市民と行政がともに混乱を避けて接種にも参加しやすい仕組みを考える。

国が開設した東京都内の大規模接種会場。2021年6月7日から受け付けた6月14日からの接種分は予約が埋まらず、大量の空きが発生している
国が開設した東京都内の大規模接種会場。2021年6月7日から受け付けた6月14日からの接種分は予約が埋まらず、大量の空きが発生している
(撮影:日経クロステック)
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偏る需給、先着順で「急がない希望者」が様子見か

 予約を巡る異変が大規模接種会場で起こっている。国が設置した東京と大阪の大規模接種会場では、6月14~27日接種分の8割に当たる合計17万人分の予約を6月7日から受け付けている。ところが、丸3日たった6月10日の午前10時時点でも予約枠の77%と大量の空きがある状態だ。異例の事態に対して、運営を担当する防衛省は早く予約を確保するよう呼びかけている。広島県が福山市に開設した大規模接種会場でも、6月8日の初日に、想定した1日1800人に対してわずか5%の人しか来場しないという事態に直面した。

 政府CIOポータル内の「ワクチン接種状況ダッシュボード」によると、全国における65歳以上の接種対象人口は約3548万人。これに対し、65歳以上への接種数は6月8日時点で約1024万回(うち1回目が約907万回、2回目が約118万回)。1回目の接種率は25.55%とようやく4分の1を超えた段階で、早くも需給にムラが生じている。

 大規模接種会場に何が起こっているのか。広島県は事前の広報不足を、防衛省は市区町村の集団接種が軌道に乗ってきたことやネット予約が高齢者には難しいことなど、さまざまな要因が複合している可能性を指摘する。複数ある要因の1つとして、学識者らが指摘するのが先着順の弊害だ。

 防衛省の大規模接種会場は大阪会場が予約開始後30分で予約が埋まるなど、5月中は予約がすぐに埋まる傾向が続いた。カナダのブリティッシュコロンビア大学経済学部の野田俊也助教授は、「一般的には、先着順を採用すると早く接種を受けたい、希望日時が限られているといった人が先に殺到する。一方で、希望日が多い人や急がない人は混雑を避けるなど、行動が人によって大きく変わる」と指摘する。予約枠が余るという直近の状況は、早く接種を受けたい人の接種が一巡した一方で、予約の混雑を嫌った人が待機してしまったなど、想定外のミスマッチが広がった可能性がある。

 野田助教授や東京大学、慶応義塾大学など、マーケットや取引を専門とする経済学者で構成する学識者のグループは2021年5月、ワクチン接種の予約システムを改善する提言を発表した。先着順は今後も混乱を招く可能性があるなど問題が大きく、代わりとなる3つの方式を提言している。具体的には、希望者から抽選で接種予約の順番を決める「抽選制」、希望者から年齢の高い順に接種予約の順番を決める「年齢順制」、自治体が対象者に日時を指定する「割当制」である。

 実際に兵庫県加古川市が抽選制で、福島県相馬市や同県南相馬市、新潟県上越市などが割当制で、混乱なく接種申込みを増やしたり、接種率を上げたりする成果を出している。