全4671文字
PR

 政府は2021年6月10日、新型コロナウイルス対策のワクチン接種回数が2000万回を達成したと公表した。全国各地でワクチン接種が加速しつつある一方で、課題として浮上しているのがワクチン接種予約の需給が地域や会場で偏り始めていることだ。

 例えば、自衛隊や一部の県が運営する大規模接種会場では6月14~20日の週以降で予約が埋まらない状態が続いている。関係者はネット予約が苦手な高齢者を支援する、電話予約を始める、会場への交通手段を用意するなど、様々な阻害要因を解消しようと知恵を絞る。

 解消する策の一つとして検討すべきなのが、期間を細かく区切って受け付け・締め切りを繰り返している、先着順の予約システムの見直しだ。取引やマーケットの仕組みを研究する東京大学や慶応義塾大学などの経済学者の提言チームは、先着順に代替する3つの方式を提案している。接種の順番を抽選で決める「抽選制」と、希望者から年齢の高い順に順番を決める「年齢順制」、自治体が対象者に日時を指定する「割当制」である。

関連記事:ワクチン接種予約がら空きの異変、予約の混乱改善の鍵は「脱先着順」にあり

落選者の繰り越し方式で、加古川市は申し込みが急増

 提言チームによれば3つの方式は、「インセンティブ(予約の取りやすさ)」と「効率性(市民と行政がともに業務負担が軽い)」、「公平性」のいずれの指標でも、需要が強い局面では先着順より優れている。大規模接種会場は既に空きが多くなったため、先着順のメリットが大きくなりつつある。一方で、予約が取りにくい状況がある市区町村は、今からでも予約方法を見直す機会があると指摘する。

 実際に割当制や抽選制を採用した先進自治体の事例からは、市民のインセンティブや行政の効率性に関わる意外な効果が分かった。接種時期がかなり先だったとしても、市民が早い段階で行政に接種希望を伝える機会があるため、ワクチンの需要を把握しやすくなることだ。

 例えば、福島県相馬市は割当制を採用して、65歳以上の高齢者に対する1回目の接種率が5月24日時点で80%を超え、6月11日には85%に達した。日時の割り当てに際し、相馬市は市民に接種券や問診票などを届ける郵便物の中に返信用はがきを入れ、接種希望の有無を事前に確認している。その結果、65歳以上の市民の接種希望率が90.4%と判明するなど、希望数を事前に把握できることで、接種を加速させるための態勢構築へプラスに働いた。

 兵庫県加古川市は80歳以上の接種予約が先着順で混乱したため、5月中旬に抽選制へ切り替えた。接種対象を途中から78歳以上に広げ、6月4日までに実施した計3回の抽選では、対象人口の約7割の人が抽選に応募した。接種済みを含めれば、実に対象人口の9割超が申し込みを済ませたことになる。

 加古川市の場合、接種ペースそのものは早くない。しかし落選者は次回に繰り越されるため、申し込みは1回で済む。申し込みが加速したほか需要を把握しやすくなり、「残る80歳以上への接種は6月中に完了する見込み」(加古川市の担当者)と具体的な見通しを示せている。