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 国と都道府県、市区町村が新型コロナウイルスのワクチン接種態勢を拡充している。それぞれが集団接種を用意し、医療機関での個別接種も増える中で、接種を円滑に広げるには組織間の連携がカギを握る。

 大規模接種会場から個別接種まで接種態勢が多層的になると、会場運営でいくつかの課題が出てくる。1つ目は二重予約が増えることで事前の連絡なく接種を欠席する人が増え、ワクチンを無駄にする恐れが高まることだ。特に市区町村の集団接種会場と国や都道府県が運営する大規模接種会場の間では二重予約が起こりやすい。

 2つ目は、個別接種を実施する医療機関にとって予約などの関連業務が負担になることだ。予約システムの運用や電話予約の態勢づくりは小規模な診療所だけでなく、中小規模の病院にとっても負担が大きい。

 これらの課題を広域での連携態勢により解決しつつあるのが、岡山県と埼玉県だ。

岡山県が採用した全県の共通予約システムの仕組み
岡山県が採用した全県の共通予約システムの仕組み
(出所:岡山県)
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予約は県・市町村が代行、医療機関を予約電話対応から解放

 岡山県は県内全27市町村と連携して、住民が市町村の枠を超えて医療機関での個別接種を受けられる仕組みを2021年5月に始めた。医療機関の参加は任意で、県内で個別接種を実施する約700の病院・診療所のうち約200が現在参加している。

 医療機関の負担を軽減するほか、市民から見た個別接種の利便性を高める狙いだ。「居住地でなく職場に近い病院など、接種場所を選びやすくなる」(岡山県保健福祉部ワクチン対策室)。早く接種を受けたい人は予約の空きがある病院を探して接種を受けるなど、需給の偏りを緩和する効果も期待できる。

 このために岡山県は個別接種向けの予約システムを自ら運用して、同システムを医療機関や市町村に開放する態勢を採った。「岡山県共通予約システム」と呼ぶ。電話予約は各市町村が運営するコールセンターで受け付け、各コールセンターで共通予約システムに入力する。医療機関は住民からの予約の電話を受けるといった業務をせずに済む。

 岡山県は新型コロナのワクチン接種のうち5割強を個別接種で、残りを集団接種や職域接種で実施する計画を立てている。個別接種を利用しやすくする態勢づくりは、現在のところ順調に進んでいる。

 県内の高齢者の接種対象者は約56万人。これに対し、共通予約システムで予約が確保された接種回数は8月第1週までの予約枠で延べ30万回に達した。1人が2回分を予約済みと仮定して単純計算すると、15万人分の接種を県内200の医療機関で接種することが決まった形で、ほぼ想定通りのペースだという。

 さらに予約システムは、一部の病院では問診を効率化するなど接種業務にも貢献しているという。予約システムから接種者氏名などの情報を参照し、あらかじめ接種を受ける患者の電子カルテを参照できるようにしているからだ。

 市区町村では横浜市や東京都品川区なども同様に、予約を医療機関に代わって実施する態勢を採っている。しかし事例としては少数だ。医療機関が接種に集中できるよう配慮するための工夫は、まだ広げる余地がある。