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 新型の電気自動車(EV)を購入し、独自に分解調査する企画が第3弾を迎えた。今回、日経クロステック編集部と日経BP総合研究所のプロジェクトチームが照準を合わせたのが、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の量産EV「ID.3」だ。

 VWは、2019年5月に欧州市場でID.3の受注を開始したが、日本への導入予定は22年以降とまだ先だ。そこで、分解プロジェクトチームは欧州からの輸入を決断(図1)。走行試験や分解を行い、その実力を徹底調査した。

図1 プロジェクトチームが購入したVW「ID.3」
図1 プロジェクトチームが購入したVW「ID.3」
欧州から輸入したID.3が雨の横浜港に上陸した。(撮影:日経BP総合研究所)
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EV専用PF「MEB」を初めて採用

 「ID.3によってVWブランドの新時代が始まる」――。VWグループCEO(最高経営責任者)のHerbert Diess(ヘルベルト・ディース)氏は力を込める(図2)。ディーゼル不正からの立て直し策として、EVシフトに傾注する同社の命運を握るのがID.3なのだ。

図2 VWグループCEOのヘルベルト・ディース氏
図2 VWグループCEOのヘルベルト・ディース氏
19年9月の「Volkswagen Group Night(フォルクスワーゲン・グループ・ナイト)」でID.3への意気込みを力強く語った。(撮影:日経Automotive)
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 ID.3は、Cセグメントに属するハッチバックタイプの小型EVである。VWのEV専用プラットフォーム(PF)「MEB(英語名:Modular electric drive matrix、ドイツ語名:Modularen E-Antriebs-Baukasten)」を同社で初めて採用したのが最大の特徴だ(図3)。MEBは、モーターとギアボックス、インバーターを一体化した電動アクスルを車両後部に搭載した後輪駆動を基本とする。

図3 VWのEV専用PF「MEB」
図3 VWのEV専用PF「MEB」
床下に電池を敷き詰め、後部に電動アクスルを搭載する。ホイールベースを長くオーバーハングを短くすることで、車室や荷室の広さを実現した。VWの資料を基に日経Automotiveが作成。
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 VWはID.3の発表以前、「e-up!」や「e-Golf」といった小型EVを展開してきた。だが、これらはいずれもVWグループの横置きFF(前部エンジン・前輪駆動)車用PF「MQB(横置きエンジン車用モジュールマトリックス)」を流用したEVだ。エンジン車とPFを共用したため、搭載スペースの都合による電池容量の小ささや車室内の居住性などに課題があった。

 これに対しMEBは、部品配置をEVに最適化することで、広い車内空間を確保した。リチウムイオン電池は床下に配置し、より多くの容量を搭載できるようにした。電池容量は柔軟に変更でき、ID.3は、e-up!やe-Golfよりも大きい3種類の電池容量を用意する。電動アクスルや熱マネジメントシステムといった部品を共通化したことによるコスト低減も見逃せない。

 VWグループは、29年までにMEBベースのEVを約2000万台生産する計画である。同社はMEBをVWグループで共用するだけでなく、提携する米Ford Motor(フォード・モーター)など、他社に外販することも発表している。生産規模を増やすことで、コスト低減を図る考えだ。

 ディース氏はID.3について、「(VWの主力Cセグメント車である)『ゴルフ』のディーゼル仕様車と同等の価格帯を実現する」と宣言している。価格は3万1960ユーロから(1ユーロ=130円換算で約415万円)だが、ドイツではEVに対して補助金が出る。これを加味するとゴルフのディーゼル車よりも安くなる。