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 ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の「ID.3」は、量産電気自動車(EV)として初めてAR(拡張現実感)表示に対応した(図1)。一部イラストの位置を道路や前方車両に合わせて制御するHUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)を搭載。運転者の直感的な状況理解を助けて安全性を高める。車両分解を通して技術の詳細に迫った。

図1 VW「ID.3」は量産EV初のAR表示対応に
図1 VW「ID.3」は量産EV初のAR表示対応に
(a)車両外観、(b)HUD表示画面。(出所:車両は日経クロステック、HUD表示画面はVW)
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 HUDは、主にステアリングホイール前方のインストルメントパネル(インパネ)部分に組み込む車載機器。HUD機構の内部で映像を反射させて、運転者の視点から数m先に虚像として表示する。運転者は前方に向けた視線を動かすことなく必要な情報を得られるため、いわゆる「脇見運転」を減らせる。

2段構造で表示分担

 HUDは多くの車種に搭載されているが、ID.3向けが一般的なHUDと異なるのは、表示映像を上下2段に分割していること。上段は約10m先に、下段は約3m先に見えるように映像を表示する。

 このうち、約10m先に映す上段でAR表示を可能にした。矢印や線といったイラストの大きさや位置を制御して前方の景色に重なっているように見せている。遠くは小さく、近くは大きく映すことで遠近感を生む。特徴的なのはカー・ナビゲーション・システムと連動した矢印の表示だ。交差点や分岐に近づくにつれて矢印の表示が大きくなり、運転者を曲がるべき方向へと誘導する。

 約3m先に映す下段は表示位置を固定して、車速や交通標識、運転支援システムの作動状況など幅広い情報を映す。

 ID.3向けのHUDを分解したところ、韓国LG Electronics(LG電子)が開発し、供給していることが分かった。日本精機やデンソー、ドイツContinental(コンチネンタル)が世界シェアの過半を握るHUDだが、LG電子も近年、開発に力を入れている。

 また、LG電子はID.3でメーターディスプレーやセンターディスプレーの供給も併せて勝ち取り、表示系HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を統合的に制御しやすくしている。

 HUD機構は、PGU(画像生成ユニット)と凹面鏡や反射鏡などの光学系部品の組み合わせが技術的な差異化点となる(図2)。各部品の高性能化や、緻密な配置調整などによって、より遠くに、より大きい映像を映しだす。一方で、今回の車両分解で判明したのは、コストを抑えつつAR表示を可能にしたLG電子の工夫だった。

図2 ID.3が搭載するHUD機構
図2 ID.3が搭載するHUD機構
左がPGU(画像生成ユニット)、右がHUD機構本体。車両搭載時、PGUはHUD機構に組み 込んであった。韓国LG電子が供給している。(出所:日経クロステック)
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 「HUDの心臓部」とVWが表現するPGUの分解を進めていくと、一般的なHUDと同様に安価なLCD(液晶)ディスプレーを採用していることが分かった(図3)。大きさは約4インチ。上下2段に映像を分けているのがID.3向けHUDの特徴といえるが、1枚の液晶ディスプレーの表示領域を分けて制御し、遠距離と近距離の全表示を賄っている。

図3 ID.3向けHUDのPGUを分解
図3 ID.3向けHUDのPGUを分解
HUD機構から取り外し、矢印方向に分解していった。(撮影:日経クロステック)
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