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 「1つ、2つ……、やっぱり8個ある」――。今まで見たことのない、不思議な十字形状の部品が8個並んでいた(図1)。

図1 VW「ID.3」のフロントフード下から見慣れない部品
図1 VW「ID.3」のフロントフード下から見慣れない部品
十字形状の部品が8個並んでいた。(撮影:日経Automotive)
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 ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の電気自動車(EV)「ID.3」の分解プロジェクトは、いよいよ“本丸”の調査までたどり着いた。電動化の波に乗って裏方から表舞台へと一気に躍り出た熱マネジメントシステムだ。エンジン車のような熱源を持たないEVにとって、熱の使いこなしが商品価値を左右する。

 電池やモーターなどを最適な温度に制御しつつ快適な空調を実現する統合型のシステムへの関心が高まる中で、先頭を走るのが米Tesla(テスラ)である。空調や電池、パワートレーン、車載コンピューターなど、冷却・加温が必要な部品の熱マネジメントを統合制御するシステムを「モデルY」や「モデル3」に搭載した。その“司令塔”の役割を担う部品が「Octovalve(オクトバルブ)」だ。

 オクトバルブの内部には8つの流路がある。その名がラテン語で「8」を意味する「オクト」に由来するのはこのためだ。すべての冷却・加温の回路をオクトバルブとつなげ、熱を運ぶ冷却水(クーラント)が流れる経路を条件に応じて切り替える。

 オクトバルブに代表される統合型の熱マネジメントシステムによって解決を図るEVの課題は、(1)航続距離の確保(2)充電時間の短縮(3)電池劣化の抑制――の3つ。EVは、エンジン車と異なり、特に熱源が乏しい。(1)の航続距離確保のためには、統合型のシステムによってあらゆる部品から熱をかき集めて活用する必要がある。

 ID.3の熱マネジメントシステムは、フロントフード下の空間を占拠するほど大掛かりなものだった。かつてエンジンが鎮座していた場所だ。自動車技術の主役交代の足音を感じながら、分析に取り掛かることにした。

「こなれていない」VWの熱システム

 ID.3の熱マネジメントシステムは、ラジエーターユニットから配管された冷却水を循環させる部分と冷媒を循環させる部分で構成されている(図2)。冷却水と冷媒の配管が複雑に絡み合い、「まだまだこなれていない印象」(ある自動車部品メーカーの熱技術者)だ。実際、Teslaの熱マネジメントシステムよりも配管は長く、システム全体の質量で比べると10kg近く重い。

図2 “VW版オクトバルブ”を搭載
図2 “VW版オクトバルブ”を搭載
ID.3のフロントフード下を占拠していた熱マネジメントシステム。目を引くのが、冷媒の流れを制御する膨張/遮断用のバルブだ。十字形の部品で、8個並んでいた。(撮影:日経Automotive)
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 車両から取り出したID.3の熱マネジメントシステムの中でひときわ目を引いたのが、冒頭に紹介した8個の十字形状の部品だった。調べたところ、冷媒の循環を制御するためのバルブであることが分かった。2個ずつのバルブユニットとして集約していた。

 ID.3は、CO2(R744)冷媒によるヒートポンプシステムを搭載する。このR744冷媒を流すヒートポンプ用の電動コンプレッサーやコンデンサー、HVAC(冷暖房空調装置)、アキュムレーター、そして冷媒と冷却水の熱を融通するための熱交換器(チラー)などの各部品を、8個の十字バルブおよび配管でつないでいた。