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 新型コロナウイルス感染症のまん延を防ぐための「ステイホーム」をきっかけに、国内でもリモートワークが当たり前になってきた。リモートワークを支えるITシステムのセキュリティーの新しい考え方として注目され、先進企業で導入が始まっているのが「ゼロトラスト(Zero Trust)」である。ゼロトラストを基礎から解説した書籍『ゼロトラスト Googleが選んだ最強のセキュリティー』(勝村幸博 著/日経BP)を、IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏に読んでもらった。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で大きく変わったオフィス環境の1つはリモートワークの一般化だろう。政府の熱心な旗振りにもかかわらず、これまではなかなか普及しなかったが、コロナ禍とそれに伴うステイホームの呼びかけで多くの企業が一気に動き出した。完全リモートワークを早期に実現した企業があった一方、オンライン化がなかなか進まない企業があるのもまた事実だが、最も大きな変化は多くの人がリモートワークのメリット・デメリットを含めて、その現実を知ったことにある。

 リモートワークの導入で早起きして満員電車に揺られる通勤地獄から逃れてワークライフバランスが大きく向上したというポジティブな感想を述べた人は実際、筆者の周りにも多かった。逆に子育てしながらの自宅リモートワークは仕事が思うように進まないといったネガティブな印象を得た人もいた。リモートワークを可能にするシステムの新規導入や業務フロー、決裁フローの変更などさまざまな整備を強いられた企業の声も聞いた。

多くの人がリモートワークを体験して世界が新たな時代に

ゼロトラストは“何も信用しない”という考え方をベースに安全な企業システムを構築する情報セキュリティーの考え方 
ゼロトラストは“何も信用しない”という考え方をベースに安全な企業システムを構築する情報セキュリティーの考え方 
(出所:『ゼロトラスト Googleが選んだ最強のセキュリティー』)
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 これらの結果として、多くの仕事がリモートワーク化できると人々が知ったことにより、世界が新たな時代に突入したのは確かだ。人々がリモートワークを体感し理解した今、働き方改革や優秀な人材確保、オフィススペースの確保にかかわるコストなどさまざまな面を含め、“ビフォーコロナ”の時代にそのまま後戻りすることだけは許されない、それほど大きな転換点になったと感じる。

 では、どのようにして企業の情報システムを刷新し、本当の意味での従業員の働き方改革を実現するのか。そのために必要なシステム構築のあり方、考え方を示したのが本書だ。「ゼロトラスト」とは “何も信用しない”という考え方をベースに安全な企業システムを構築する情報セキュリティーの考え方である。米グーグルが約8年かけてゼロトラストに基づく自社システムを構築したことで世に知られるようになり、最近は先進企業の多くが次々と導入しているという。

 従来システムの多くは企業ネットワーク内にある端末やユーザーを信頼した上でID・パスワードなどを用いて認証し、利用できるようにする「境界防御」の考え方を採用している。境界防御では外部からのアクセスをファイアウオールと呼ばれる機器などを通じて防御してきた。これは外からのアクセスには一定の防御を行えるものの、いったん侵入を許した場合は無防備に近いものだった。