
巨大IT企業が参入する自動車産業の未来を読み解く第2回。CASE(コネクテッド、自動運転、シェア&サービス、電動化)という「うねり」は、これまで完成車メーカー各社が追求してきた価値をすべて否定する。CASEという大波が襲ってきた3つの要因のうち、今回は、中国の思惑とIT企業の思惑について解説する。書籍『Apple Car デジタル覇者vs自動車巨人』から一部を抜粋して紹介する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)
中国はここ数年で世界最大の電気自動車(EV)大国にのし上がった。その生産・販売台数は桁違いで、20年のEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)に燃料電池車(FCV)を加えた新エネルギー車(NEV)の販売台数の合計は約136万7000台と過去最高に達した。2020年にEVとPHEVの販売が急速に伸びた欧州全体の販売台数をも上回り、世界最大のEV+PHEVの市場となっている。なぜ中国は、これほどまでに「EV大国」になったのか。
中国がEVの普及に力を入れるのには、中国の都市部で深刻な大気汚染問題の解決や、地球温暖化対策という狙いがあるのは間違いない。しかし普及という観点から見れば、一足飛びにEVに行くのではなく、コストや航続距離、充電インフラの課題がないハイブリッド車(HEV)を拡大するのが現実的な解だろう。それでも、HEVを拡大する政策を中国が採らない理由は欧州と同じである。HEVの土俵で勝負しても、先行する日本には勝てないと悟っているのだ。そこで、日欧米の自動車先進国に勝てる可能性がある土俵としてEVを選んだのである。
中国は、25年までの自動車産業の育成計画として「自動車産業の中長期発展計画」を17年4月に公表した。この計画では、現在の中国を「自動車大国」と位置付けた上でコア技術やブランド力はまだまだ弱いと分析している。そこで、10年かけて技術力を向上させ、「自動車強国」に躍進させるという目標を掲げた。つまり新エネルギー車政策をテコにして技術力・ブランド力でも世界一流の自動車強国へと発展させることを政策目標として掲げているのだ。EVは、環境問題解決の手段としてよりも、中国が自動車産業を発展させるためのキーテクノロジーと位置付けて、国家としても強力にバックアップしているというのが中国の思惑である。
IT企業が自動車市場を狙う理由
ここまで欧州の思惑と中国の思惑について解説してきたが、CASEの最も強力な推進力となっているのは、自動車業界の外、すなわちIT企業の思惑である。米グーグル(Google)が自動運転を推進していることはよく知られているが、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)も自動運転開発ベンチャーを買収し、さらに20年末には米アップル(Apple)が「アップルカー」の製造委託先を探しているという報道が大きな話題となった。なぜこうした巨大なIT企業がこぞって自動車市場を狙うのか。それは、こうしたIT企業から見れば、自動車という商品が時代の変化に全く対応できなくなっているように映っているからだ。
確かに現在の車は、燃費は向上し、静かになり、乗り心地は良くなり、エアバッグなどの装備によって格段に安全になった。つまり「より高機能・高性能」な方向には進化している。しかしこの進化は、いわばこれまでの改良の延長線上にすぎず、高度化する消費者の要求に全く応えられていない。