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 デジタル化に合わせてビジネスをどう変革(DX=デジタルトランスフォーメーション)すべきか。UX(ユーザーエクスペリエンス)を軸としたDXコンサルティングを手掛けるビービットが2021年9月に発売し、既にベストセラーになっている書籍『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』から、ビービットが考えるデジタルビジネスの極意を紹介する。第1回はデジタルで激変した企業と顧客との関係を整理する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 デジタル化が進展する前の時代(=ビフォアデジタル時代)は、企業は顧客とのつながりを持つことが難しい時代でした。今のようにデジタル技術が発展しておらずスマートフォンも普及していなかったため、物理的に距離の離れた顧客とつながりを持ちにくい状況にありました。

 当然ですが、顧客との接点・つながりを持てないと価値を提供することはできません。何かしらのつながりがないと、価値を届けることができないからです。それ故に、企業が物理的に離れた場所にいる顧客に価値を届けるには、プロダクトやサービスを生産して流通・販売するまでの一連のプロセス(=サプライチェーン)を構築することで、価値を連鎖させていく仕組み(=バリューチェーン)をつくる必要がありました。例えばメーカーであれば、「研究開発~商品設計~生産~流通~広告・販売」といったサプライチェーンを基点に、自社の強みに応じて研究開発を進めてユニークな流通網をつくり、提供したい価値を顧客に届けていた、ということです(図1)。

図1 バリューチェーン型の価値提供モデル
図1 バリューチェーン型の価値提供モデル
(出所:ビービット)
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 これはなにもメーカーに限った話ではありません。小売業やサービス業、メディア企業、BtoB企業にも同じことがいえます。例えばスーパーマーケット(小売業)であれば「店舗設計~商品選定・調達~売り場づくり~販売」というプロセスにおいて、新聞社(メディア企業)であれば「取材~編集~印刷~流通~販売」というプロセスの中で、それぞれ独自のバリューチェーンを構築することによってそれぞれ提供したい価値を顧客に届けていました。

 このように、ビフォアデジタル時代は、バリューチェーンが顧客に価値を提供する上で極めて重要な役割を担っていました(=バリューチェーン型の価値提供)。

顧客の視点から見たときの企業の提供価値

 では、ビフォアデジタル時代において企業が提供していたプロダクトやサービスは、顧客の視点から見るとどのような価値があるのでしょうか。

 企業が提供しているプロダクトやサービスを顧客視点で捉えると、「顧客自らが目指す成功を実現するために必要な手段やツールの一つ」という位置付けになります。イメージを深めるために、友人と日帰り旅行に行くシーンで考えてみます。このようなシーンで顧客が目指す成功とは、「友人との楽しい思い出づくり」でしょう。