デジタル化に合わせてビジネスをどう変革(DX=デジタルトランスフォーメーション)すべきか。UX(ユーザーエクスペリエンス)を軸としたDXコンサルティングを手掛けるビービットが2021年9月に発売し、既にベストセラーになっている書籍『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』から、ビービットが考えるデジタルビジネスの極意を紹介する。第2回はナイキの施策を例に、デジタルで激変した「顧客との関係」を企業がどう活用すべきかを解説する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)
デジタル化が進展したことで、企業はデジタルチャネル上にて高頻度に顧客接点を持つことができるようになりました。企業は物理的な制約を超えて、いつでもどこでも顧客とつながりを持てるようになったのです。これまで顧客から遠い位置にいたメーカーも、スマートフォンアプリさえ開発すれば顧客接点を持てます。
デジタル接点を通じて顧客とつながりを持てるようになったことで、企業は物理的に距離の離れた場所にいる顧客にも価値を提供できるようになりました。ここが重要なポイントなのですが、その結果として、企業は「顧客が大きな成功に至るまでの行動フロー」をジャーニー横断的に支援できるようになる、という変化が起きています。
例えば自動車メーカーであれば、「旅行プランのたたき台を簡単に作成するアプリ」「旅行プランを決定すれば、レストランやレジャー施設などを自動で予約してくれるアプリ」「現在地の近くにある観光名所と、その楽しみ方やアクセス方法を教えてくれるアプリ」「旅先で撮影した写真を自動でアルバム化してくれるアプリ」といったデジタルサービスを開発・提供することによって、「旅行プランの設計~各種施設の予約~目的地への移動~余暇活動の実践~思い出化」という行動フローを横断的に支援できます。
自動車メーカーという単一の企業が、顧客が成功に至るまでの行動フローを横断的に支援できるようになっているのです(図1)。
これは、デジタルチャネルが登場したことによって、「企業による価値提供の方法」が抜本的に変化したことを意味しています。これまでの企業は、物理的な顧客接点(プロダクトや店舗空間など)を通じてしか価値を提供することができなかったため、顧客が大きな成功に至るまでの行動フローの一部分のみを支援することしかできませんでした。例えば自動車メーカーであれば、自動車というプロダクトの提供を通じて「目的地までの移動」という小さな成功しか支援できなかったのです。