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 デジタル化が進展する今の時代に企業が考えるべきことは何か。2021年9月発売の書籍『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』から一部を抜粋し、5回にわたって紹介する。第5回(最終回)では、「バリュージャーニー型に転換しない」という選択について解説する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 バリュージャーニー型に転換しないという選択・戦略も、もちろん企業にとって有力な選択肢です。何が何でもバリュージャーニー型を目指すことが正解だとは限りません。そこで、ここでは「バリュージャーニー型に転換しない」という選択をした企業がどのような状況に置かれるのかを説明します。

 バリュージャーニー型への転換を目指さない選択をした「衆安保険」という中国企業の事例を紹介しましょう。衆安保険は顧客との直接的な接点を持っていないため、一般的な認知度はあまり高くない企業です。一方で、飛行機遅延保険や糖尿病保険、返品運賃保険といったユニークな保険商品を生み出し、アリババやテンセント、平安保険といったバリュージャーニーを提供している企業にそれらの機能を提供することによって、ビジネスを成立させています。

 衆安保険のような機能提供に特化した企業にとっては、競争力のある商品機能を有していることが生命線となるため、年間で100以上の新商品を開発しています。優れた商品機能を提供できるからこそ、衆安保険はバリュージャーニー提供企業の単なる下請け的な存在にはならず、高い交渉力を維持することができているのです。

 このような事例から、競争力のある機能を生産・提供することができれば「バリュージャーニー型の価値提供モデルへの転換を目指さない」という選択をしたとしても、強い競争力を発揮し続けることが可能であることが読み取れます。

「バリュージャーニー型に転換しない」デメリット

 ただ、「バリュージャーニー型に転換しない」選択をした企業は、以下のようなデメリットを覚悟しておく必要があります。

(1)自社ブランドが弱体化する
(2)ユーザーの行動データを入手できない可能性がある
(3)プラットフォーム提供企業にジャーニー使用料を払う必要がある

 まずは「(1)自社ブランドが弱体化する」です。他社が提供しているバリュージャーニーに機能提供だけをしている企業のブランド力は、相対的に弱まります。例えばネットで映像作品を観る場合、どのサービス(Amazon PrimeやNetflixなど)を利用しているかを意識する一方で、どの制作会社が作っている作品なのかを意識する人が少なくなっていくように、機能提供者の存在は顧客にとって相対的に重要ではなくなっていくのです。究極的には「JRという鉄道会社を利用している意識はあるが、どのメーカーが製造した列車を利用しているかは知らない」という状態に近いものになっていくのではないでしょうか。