コンサルティング会社クニエ(東京・千代田)の新規事業戦略チームは、独自調査「サブスクリプション(サブスク)事業の実態調査」を基に、サブスク事業の成功・失敗要因を分析した書籍『なぜ9%のサブスクしか成功しないのか』(日経BP、2021年11月発行)をまとめた。この本で指摘された「失敗するサブスクの特徴」の一部を紹介する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)
コンサルティング会社クニエの新規事業戦略チームは、サブスク事業経験者500人に対して「サブスク事業の実態調査」を実施した※。調査結果の「最重要KPI達成率」が100%以上を成功した事業(以下、「成功層」と呼ぶ)、100%未満を失敗した事業(以下、「失敗層」と呼ぶ)と定義し、各設問の回答について、成功層と失敗層で有意な差が出ているものを「失敗するサブスクの特徴」としている。本項では、「失敗するサブスクの特徴」のうち、「組織」に関するものを紹介する。
失敗するサブスク特徴③ 関連部門との調整に追われる
「サブスク事業を推進する際の状況」に関連する調査結果が図表3である。失敗層は成功層より、総じてポジティブ(図のAに近い)の割合が低い。特に「上司などからの指摘で検討が加速された」「関連部門との調整は円滑に進められた」が低く、周囲の支援や関連部門との調整がうまくいかなかった割合が高い。つまり、失敗層では「上司の指摘」は有効ではなく、「関連部門との調整に追われる」といえる。
では、なぜポジティブ(図のAに近い)の割合が低いと失敗するのか。それは、検討スピードが低下してプロジェクトの遅延が発生し、納期順守で本来検討すべき事項がおろそかになり、KPIの達成が難しくなるからである。失敗層と成功層で大きく異なっていた「上司の指摘」と「関連部門との調整」の観点で解説する。
先に「上司の指摘」である。例えば役職が多階層になっている企業で、上司に承認を求めたとしよう。ここでは上司を部長、そのさらに上司を事業部長とする。部長は自分が意思決定した内容を、事業部長に説明する必要があるため、その意思決定が妥当と判断できる根拠を集めようとする。事業部長が質問しそうな指摘や質問への対応のため、部下に幅広い情報収集を指示する。部長も、事業部長も、新規事業の顧客の本質的なニーズなど具体的な企画内容の理解は乏しいので、立場を全うするために「一般論的な指摘」にとどまってしまう。
こうした「一般論的な指摘」に振り回されると、本来時間を掛けるべき顧客理解に向けた活動やパートナーとのすり合わせなどの活動に注力できなくなることがある。見極めるべき市場は「社外」なのに、活動が「社内」に向いてしまい、マーケットを表面的にしか捉えず、事業を見誤ることにもつながる。