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 累計20万部を突破した書籍『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)。オンラインとオフラインの境目がなくなる世界でUX(ユーザーエクスペリエンス)こそが重要であることを論じてきた。

 この「アフターデジタル」のサービス作りについて世界のトップランナーが語り合ったイベント「L&UX 2021」を書籍化したのがシリーズの新刊『アフターデジタルセッションズ』だ。本書に収録したMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に関する対談から一部を抜粋して紹介する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

モデレーターを務めるForbes JAPAN編集部の谷本有香氏:近年では顧客体験のためにテクノロジーを使う必要性が理解されつつありますが、仮にデータを使うと言っても、日本ではデータの活用が監視社会につながるという不安も根強いように見えます。データ利用について、人々のコンセンサスや一般の理解を得るために何をすべきで、社会やステークホルダーに対して、どのようなメッセージを発すればいいのでしょうか。

MaaS Globalのサンポ・ヒエタネン氏:「人」から始めることはもちろん大事ですが、さらに「ワクワクすることとは何か?」も必要だと思っています。つまり、「夢」を出発点にする必要があると思うんですね。実はMaaSの概念は全て夢から始まっています。

MaaS Globalのサンポ・ヒエタネン氏
MaaS Globalのサンポ・ヒエタネン氏
(写真提供:ビービット)
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 私たちが日本で驚いたのは、嫌がらせや不正なロビー活動を一切受けたことがなかったことです。夢に胸を躍らせ、本当に実現可能なのかと考えた人々ばかりでした。人々が納得する夢であれば、本当に必要なのは何かを考え始めてくれるのだと思います。

 データも同じです。この目的にはあのデータ、その目的にはこのデータ、アウトプットをきれいにするにはこのデータ、それはこうすれば取り組める、といった話も、夢を実現するためであればできるはずです。そこから企業や自治体、政府を含めた全てのステークホルダーがそろい、共同して課題を解決していくことになります。

初期のデータビジネスが方向を間違わせた

 私はこのようなエコシステムに長く携わっているので、データへのアプローチはアーリーアダプターによって完全に間違った方向へ進んでしまったと強く感じています。

 なぜデータが問題になるのでしょうか。データを扱う検索エンジンやSNS、それに類する事業は、初期の頃は小規模なビジネスで、このようなサービスをサブスクリプションする人はいませんでした。そこで彼らが考え出した収益モデルは「ユーザーが提供する情報が、サービス提供企業にとっての商品になる」というもので、いわば二次的収益化の形式です。しかし、この時代は今終わりを迎えようとしています。物理的な世界が大きく変化している今、こうしたデータによる利益は月数セント程度で、昨今では値下がり続けているからです。