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 「経済安保」という言葉をよく聞くようになった。IT、AI(人工知能)、デジタル技術などは対象となり、国内外の法規制への目配せが必要だという。弁護士である著者陣が、ビジネスパーソン向けに『シン・経済安保』を書き下ろした。本書から「はじめに」を再編集して紹介する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 2021年10月4日、岸田内閣が発足しました。その中でひときわ耳目を集めたのが、新たに「経済安全保障担当大臣」が任命されたことでしょう。このニュースを見聞きして「経済安全保障(経済安保)とは何?」と思った方もいることでしょう。この連載では、そのようなビジネスパーソンに向けて、現代社会における経済安全保障の問題の全体像を、法とリスク対応の観点から、分かりやすく説明しようというものです。

違法ではなかったLINE事件

 2021年3月、チャットアプリLINEの利用者の個人情報が、中国の委託企業から閲覧できる状態になっていたと判明しました。この“LINE事件”では、利用者の情報を海外に移転することについて十分な説明がなされていなかったとして、個人情報保護委員会と総務省による調査対象となりました。事態を収めるため、LINE社の代表取締役社長が記者会見で謝罪し、さまざまな対策を取ると説明しました。これにかかるコストは相当なものと考えられます。

 ただ、LINE社は個人情報保護法上、違法ではなかったのです。にもかかわらず行政指導を受けることになり、対応に追われました。同社の今後の事業運営やサービス展開にも影響が出ると考えられます。

 LINE事件の経済界への影響は非常に大きなもので、公表されている行政指導の理由からは、今後LINE社に限らず、他の事業会社においても同様の指導がなされる可能性を否定できません。事件の影響を受け、静かに体制を見直している企業も少なくありません。現行法上適法であるにもかかわらず、なぜ行政指導を受けるのか。それを理解するキーワードが「経済安全保障」です。