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 「経済安保」という言葉をよく聞くようになった。IT、AI(人工知能)、デジタル技術などは対象となり、国内外の法規制への目配せが必要だという。弁護士である著者陣が、ビジネスパーソン向けに『シン・経済安保』を書き下ろした。本書から「はじめに」を再編集して紹介する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 「経済安全保障」は、ビジネスパーソンとどのような関係があるのでしょうか。それをリアルに感じることができる映像作品があります。実際に起きた事件を基にした約36分の動画『カンパニー・マン(The Company Man: Protecting America’s Secrets)』で、製作は米国のFBI(米連邦捜査局)です。この映像には丁寧な字幕が付いているのですが、実はこの字幕、日本の警察庁がFBIに依頼して付けたのだそうです。

FBIの「カンパニー・マン(The Company Man: Protecting America’s Secrets)」の紹介ページ
FBIの「カンパニー・マン(The Company Man: Protecting America’s Secrets)」の紹介ページ
(出所:FBI)
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『カンパニー・マン』紹介ページへのリンク:The Company Man: Protecting America’s Secrets — FBI

 「カンパニー・マン」の題材は、2012年のXiao Guang Qi事件です。この事件は、中国国籍のJi Li Huang(45歳)とXiao Guang Qi(31歳)が、フォームグラスを製造する米ピッツバーグコーニング社から企業秘密を盗んだ事件です。ピッツバーグコーニング社は、さまざまなグレードや密度のセルラーガラス断熱材を製造しており、「FOAMGLAS」という商品名で販売しています。この断熱材は、工業用配管システムや液化天然ガス貯蔵タンクの底部の断熱に使用されており、エネルギー会社、石油化学会社、天然ガス施設の会社を主な顧客としています。

 HuangとQiは、「自分たちは中国政府にコネがあって中国政府の規制を避けることができるので、フォームグラスを中国で取り扱いたい」とピッツバーグコーニング社に接近し、中国でフォームグラスの工場長の求人広告を出しました。FBIは、秘密捜査官をこの求人広告に応募させます。HuangとQiはカンザスシティーでこの秘密捜査官に接触し、中国におけるプラントで利用するために企業秘密を違法に取得しようと働きかけました。結局2人は逮捕され、これらの事実が明らかになり、起訴され有罪を認めました。

 「カンパニー・マン」と同様にFBIが製作した『ネバーナイトコネクション(The Nevernight Connection)』という作品も興味深いです。題材は2019年のKevin Mallory(ケビン・マロリー)事件。マロリーは米国の元諜報員で、中央情報局(CIA)の極秘案件担当や国防情報局(DIA)の情報担当など、さまざまな政府機関や複数の防衛関連企業で数多くの役職を務めてきました。マロリーは、SNSで、マイケル・ヤンという人物と知り合い、彼の案内で、2017年3月と4月に上海に行きました。

FBIの「ネバーナイトコネクション(The Nevernight Connection)」紹介ページ
FBIの「ネバーナイトコネクション(The Nevernight Connection)」紹介ページ
(出所:FBI)
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『ネバーナイトコネクション』紹介ページへのリンク:The Nevernight Connection — FBI

 マイケル・ヤンは、中華人民共和国のシンクタンク職員を名乗っていましたが、マロリーは内心、ヤンが中国の諜報員であると気付いていました。にもかかわらず、マロリーは、機密指定された文書をマイクロSDカードにコピーしてヤンに渡し、中華人民共和国に送信させた共謀罪に問われ禁錮20年の判決を言い渡されたのです。この事件は、米国の元諜報員が中国の諜報員と共謀して国防機密情報を流出させたという点で米国社会に大きな衝撃を与えました。