日経コンピュータによる書籍『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(日経BP)が2022年3月17日に発売される。2021年2月からの12カ月間に11回ものシステム障害を発生させたみずほ銀行。一連の障害の原因や背景を、日経コンピュータが全力で検証・解説した書籍だ。みずほ銀行の障害多発は大きな社会的混乱と批判を招いたが、同行には同情すべき点もある。本書のメインライター中田敦が執筆中にそれに気づいたある出来事とは……。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)
みずほ銀行で勘定系システムの刷新が難航したり、刷新後もシステム障害が多発した背景には、勘定系システムの収益源である個人や中小企業相手のビジネスが近年、もうかりにくくなっているという事情があった。筆者、つまりは日経コンピュータの中田は『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(以下、本書)を執筆中の2022年1月下旬に、そのことを痛感する経験をした。みずほ銀行の営業店窓口を訪問し、通帳の「繰り越し」をしてもらったのだ。
本書ではATMを使った通帳の記帳に関して何度か言及している。しかし筆者は最近、ATMで記帳をした記憶がなかった。本書を執筆するにあたって、みずほ銀行における記帳プロセスを確認しておきたいと思ったのだ。
ところが筆者の手元にあったのは、みずほ銀行ではなく、第一勧業銀行の「ハートのエース通帳」だった。
筆者が大学を卒業して日経BPに入社したのは1998年4月。当時の日経BPのオフィスには第一勧銀の「社内キャッシュディスペンサー(CD)」があった。日経BPの社員は社内CDに対応した専用のキャッシュカードを使うと、オフィスの外に行かずとも現金を引き出せた。そのため日経BPに入社した社員は全員、第一勧銀に口座をつくっていた。
筆者の時代は新入社員研修が行われていた会議室に、第一勧銀の職員がやって来てくれて、口座開設に必要な書類を配り、回収していってくれた。そして後日、「社内キャッシュサービス兼用」と記されたキャッシュカードと総合口座の通帳が自宅に届いた。この口座は精算した経費を会社から受け取れる唯一の口座でもあった。
筆者は給与振り込みには別の銀行の口座を使っていたので、第一勧銀の口座は経費精算にだけ使っていた。残高はATMやインターネットバンキングで確認できるので、通帳はほとんど使っていなかった。
実際に第一勧銀の通帳を開くと、明細の最後の日付は「19-3-12」だった。2019年3月12日、ではない。平成19年3月12日である。西暦に直すと2007年。15年近く記帳を怠っていた。
第一勧銀の通帳は、みずほ銀行のATMで記帳できるのだろうか。みずほ銀行のWebサイトで調べたところ、第一勧銀時代の通帳は2018年3月から使えないと分かった。みずほ銀行の勘定系システムが、第一勧銀から引き継いだ「STEPS」から新しい「MINORI」に移行したタイミングである。MINORIの全面稼働は2019年7月だが、そのタイミングで行われたのはみずほ信託銀行の勘定系システムの切り替えである。みずほ銀行のSTEPSは2018年3月でMINORIに切り替わっていた。
意外に最近まで第一勧銀の通帳が使えていたことに驚いたが、手元にある通帳にはもう記帳ができないし、通帳の繰り越しもATMや「通帳繰越機」ではできないことが分かった。手続きはみずほ銀行の窓口でのみ行われている。