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 日経コンピュータによる書籍『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(日経BP)が2022年3月に発売された。2021年2月からの12カ月間に11回ものシステム障害を発生させたみずほ銀行。一連の障害の原因や背景を、日経コンピュータが全力で検証した書籍だ。第1章では独自の取材を基に11回の障害を詳細に振り返っている。数回にわたって抜粋を掲載する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 みずほ銀行が2021年2月から2022年2月までの12カ月間に合計11回ものシステム障害を起こした事案は、日本の金融史上においても、また日本のIT史上においても、前代未聞の事態だった。

 実は、短期間でもっと多くのシステム障害を起こした金融機関は存在する。外国為替証拠金取引(FX)サービス会社の外為どっとコムで、2010年3月から9月までの半年間に15回のシステムトラブルを起こした。金融庁はまず外為どっとコムに業務改善命令を出したものの、その後もシステム障害が続いたことから、最終的には1カ月間の業務停止命令を出している。

 それに比べればみずほ銀行がシステム障害を起こした回数は少なく、業務停止命令も出されていない。しかし、あちらは新興のFX会社。こちらは日本を代表するメガバンクである。金融庁も2021年11月26日にみずほフィナンシャルグループ(FG)とみずほ銀行に対して業務改善命令を発出した際、みずほ銀行が短期間に複数回のシステム障害を発生させたことが「個人・法人の顧客に重大な影響を及ぼし、社会インフラの一翼を担う金融機関としての役割を十分に果たせなかったのみならず、日本の決済システムに対する信頼性を損ねた」と厳しく指摘している。日本の決済システムを担うメガバンクが立て続けにシステム障害を起こしたのは、かつてないことだった。

 みずほ銀行のシステム障害は、実際に顧客へどのような影響を及ぼし、社会や金融庁はそれをどう受け止めたのか。みずほ銀行やみずほFGの経営を揺るがすことになった激動の1年を振り返ろう。

ATMが通帳・カードを取り込むトラブルが発生

 みずほ銀行で2021年における1回目のシステム障害が発生したのは2月28日、日曜日の朝のことだった。

みずほ銀行のシステム障害では自行ATMが使えなくなった
みずほ銀行のシステム障害では自行ATMが使えなくなった
(撮影:日経クロステック)
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 9時50分ごろ、みずほ銀行の営業店や出張所などにあるATM(現金自動預け払い機)で、顧客が定期預金口座の記帳(通帳記入)をしようと通帳を入れたり、定期預金口座に入金するために通帳やキャッシュカードを入れたりしたところ、ATMが通帳やカードを取り込む事態が相次いで発生し始めたのだ。

 顧客は大いに慌てたことだろう。ATMの画面には「現在取扱いを停止しています」との文字が表示されるだけで、どこを触っても通帳やカードは戻ってこず、ATMに取り込まれたままになった。顧客はすぐにATM備え付け電話(みずほ銀行内では「オートフォン」と呼ばれている)の受話器を手に取り、係員を呼び出そうとした。