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 日経コンピュータによる書籍『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(日経BP)が2022年3月に発売された。2021年2月からの12カ月間に11回ものシステム障害を発生させたみずほ銀行。一連の障害の原因や背景を、日経コンピュータが全力で検証・解説した書籍だ。第1章では独自の取材を基に11回の障害を振り返っている。抜粋の第2回を掲載する。(技術メディアユニットクロスメディア編集部)

 2021年2月28日10時を過ぎると、定期預金口座に関連する取り引きをした顧客の通帳やカードだけでなく、現金の引き出しや普通預金口座の記帳などそれ以外の取り引きをした顧客の通帳やカードもATMに取り込まれるようになった。さらにはみずほ銀行のカードだけでなく、他行のカードも取り込まれ始めた。

店舗外ATMでもトラブル相次ぐ(みずほ銀行荏原支店武蔵小山駅前出張所)
店舗外ATMでもトラブル相次ぐ(みずほ銀行荏原支店武蔵小山駅前出張所)
(撮影:日経クロステック)

 なお、みずほ銀行ではない他行のATMやコンビニエンスストアなどにあるATMでみずほ銀行のカードを使った場合については、カードの取り込みは一切発生していない。いつもと同じように現金の出入金ができた。

30分間で約500件の通帳・カード取り込み

 通帳・カードの取り込み件数は一気に増加した。10時から10時20分までの間に、400件近くの通帳・カードが取り込まれた。取り込みが始まった9時50分からの30分間で、約500件の通帳・カードが取り込まれたことになる。

 このころには、みずほ銀行が横浜と札幌に設けるコールセンターにも、ATMのトラブルに関する電話が殺到し始めた。みずほ銀行は2月28日、普段の休日よりも多い32人の電話応答員をコールセンターに配備していた。実はこの日、みずほ銀行の定期預金口座に関して、システム上の特別な作業をしていたからである。

 みずほ銀行は2021年1月18日から、新規に開設する口座については紙の通帳を発行しない「みずほe-口座」として取り扱い始めていた。さらに過去1年間記帳がない既存口座については自動的にみずほe-口座に変更するとのルールの運用も始めた。

 こうした新ルールのもと、2月28日は45万件の定期預金口座をみずほe-口座へ一括で移行する作業を進めていた。この作業によって定期預金口座について不測の事態が発生する恐れがあったため、みずほ銀行はあらかじめコールセンターの電話応答員を増員していたのだ。

 そして恐れていたとおり、定期預金口座についてシステム障害が発生したわけだが、その規模はみずほ銀行の想定をはるかに超えていた。

「呼損率」66%、電話つながらず

 10時以降は、コールセンターにおける電話の呼損率は66.1%に達した。3本に1本しか電話に出られない状況だ。しかもコールセンターの担当者にとって、ATMによる通帳・カードの取り込みは想定外、寝耳に水の事態だった。そしてコールセンターの担当者では、ATMセンターとは異なりATMのリモート操作はできない。苦情を述べる顧客に対してコールセンターの担当者は「ATM備え付けのオートフォンでお問い合わせください」と答えるよりほかなかった。

 しかしATM備え付け電話を鳴らしても、電話は一向につながらない。みずほ銀行のコールセンターに電話をしてもらちがあかない。通帳やカードはいつになったら戻ってくるのか。トイレに行きたいが、ATMから離れても問題はないのか。通帳やカードが盗まれる心配はないのか。通帳やカードをATMに取り込まれた顧客は、ATMの前で放置され、立ち往生を余儀なくされた。顧客にとって、長い1日が始まろうとしていた。