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「データ上、ヘビーユーザーに見えるライトユーザー」が多いだけなのではないか、という視点

 なぜこのようなことが起こるのでしょうか。統計学的に言えば「負の二項分布の母平均に回帰しているから」です。平たく言えば、「データ上はヘビーユーザーに見えても、実際はライトユーザー」という顧客が一定数いるからです。

 例えば多くのCRM(顧客関係管理)では、一定期間に平均より数回多く買うだけで、ヘビーユーザーとしてカウントされます。しかし、消費者は購買のたびに確率的にブランドを選択しています。つまり、ブランドへの好意やロイヤルティーが増加しなくても、たまたまその年、そのブランドを数回多く買うだけで、プラットフォーム上ではヘビーユーザーとされるわけです。

 しかし、その人たちはヘビーユーザーに見えるだけで、中身はライトユーザーです。つまりロイヤルティーがあるからリピートしているわけではありません。そして、単に確率的に起こった現象ですから、来年も起こるとは限りません。むしろ、本来のライトユーザーの購買頻度に戻ると考えるのが自然でしょう。

 こうして、ヘビーユーザーがたやすくライト層や非購買層に変わる、というデータだけが残るわけです。こうした現象は古くから知られており、マーケティングのみならず、多くの時系列データで一般的に観察されます。リテンション施策やアクティベーション施策の有無にかかわらず発生し、また施策を打ったからといって止められるものでもありません。

来年の売り上げの75%を占めるのは、現在のノンユーザーやライトユーザー

 もちろん、実際には新しいヘビーユーザーが出てきますから、翌年もヘビーユーザーのパレートシェアは50%近傍に落ち着きます。では、その新しいヘビーユーザーはどこから来るのでしょうか。それは、現在のライトユーザーやノンユーザーの中から出てくるわけです。

 これらのエビデンスを知った上でマーケターが考えるべきなのは、「育ちきった(現在の購買頻度や単価が高い)ヘビーユーザーを維持すること」ではなく、「ノンユーザーに1回買ってもらうこと」「1~2回しか買っていないライトユーザーにもう1回買ってもらうこと」だといえます。

<マーケターが持つべき視点>

  • ライトユーザー:現在の売り上げの半分を占め、次のヘビーユーザーが生まれる層
  • ヘビーユーザー:現在の売り上げの半分を占め、いずれライトや非購買に変化する層

 ファンやヘビーユーザーは「今まさに購買してくれている人」ですから、大事にしたい気持ちになるのは分かります。しかし、ファンやヘビーユーザーというのは「ずっとヘビーでいてくれる人」でもなければ、「さらにヘビーになってくれる人」でもありません。2:8の法則にしろ、5:25の法則にしろ、「よく聞く話だから」「有名だから」と盲信せずに、本当か?と疑ってみることが大切です。

参考文献
[1] Kotler, P. & Keller, K. L. (2006). Marketing management (12th ed.). Prentice Hall.(コトラー, P. & ケラー, K. L. /恩蔵直人(監修)・月谷真紀(訳)(2008)『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント12版』ピアソン・エデュケーション)
[2] East, R., Hammond, K., & Gendall, P. (2006). Fact and fallacy in retention marketing. Journal of Marketing Management, 22(1-2), 5-23.
[3] Reichheld, F. F., & Sasser, W. E. (1990). Zero Defections: Quality Comes to Services. Harvard Business Review, 68(5), 105-111.
[4] Brynjolfsson, E., Hu, Y., & Simester, D. (2011). Goodbye pareto principle, hello long tail: The effect of search costs on the concentration of product sales. Management Science, 57(8), 1373-1386.
[5] Dawes, J., Graham, C., Trinh, G., & Sharp, B. (2022). The unbearable lightness of buying. Journal of Marketing Management, 38(7-8), 683-708.
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[7] McCarthy, D. M., & Winer, R. S. (2019). The Pareto rule in marketing revisited: is it 80/20 or 70/20?. Marketing Letters, 30(2), 139-150.
[8] Romaniuk, J., & Sharp, B. (2022). How brands grow part2: Including emerging markets, services, durables, B2B and luxury brands (Rev. ed.). Oxford University Press. Kindle.
[9] Sharp, B., Romaniuk, J., & Graham, C. (2019). Marketing's 60/20 Pareto Law. SSRN Electronic Journal. https://doi.org/10.2139/ssrn.3498097
[10] Romaniuk, J., & Wight, S. (2015). The stability and sales contribution of heavy-buying households. Journal of Consumer Behaviour, 14(1), 13-20.

次回の「未顧客理解」を理解する

芹澤 連(せりざわ・れん)
マーケティングサイエンティスト/コレクシア マーケティングプランニング局長
芹澤 連(せりざわ・れん) 数学、統計学、計量経済学、データサイエンスなどの理系アプローチと、心理学、文化人類学、社会学などの文系アプローチに広く精通。未顧客理解の第一人者として、事業会社やメーカーのマーケティングや事業拡大を支援すると共に、社内研修などの講師を務める。「芹澤顧客研究ラボ」主催。シニアマーケターの知見を若年層マーケターに継承、育成する「マーケティングU-40」をけん引。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)。
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著者●芹澤連/定価●2420円(10%税込)/発行●日経BP/判型●A5判264ページ/発行日●2022年6月20日/ISBN 978-4-296-11269-2

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