全6321文字
PR

「ウチのブランドの顧客は他と違う」はマーケターの願望

 STPの有効性に疑問を投げ掛けた研究の中で、ひときわ大きな関心を集めたのが、競合するブランド間において顧客プロファイルは変わらないという指摘でした[6] [10]。マーケターはよく「ウチのブランドは他と違う、異なる顧客層にアピールしている」と思いがちですが、これらの研究によると、競合関係にあるブランドは、どれもほぼ同じ人たちに買われているということになります。もちろん、価格や使用目的が大きく異なるブランドは競合関係にはならないため、顧客層も異なります(子供用シリアルと大人用シリアルなど)。

 より一般的な傾向として、ブランドの顧客比率は、そのブランドが属する商品カテゴリーの顧客比率に近くなることが知られています[11]。例えば、カテゴリー全体の顧客比率が男性50%、女性50%なら、そのカテゴリーのどのブランドも大なり小なりその比率に近くなるということです。ですから、企業側が女性客を増やしたいと思って女性をターゲットにした新ラインアップを投入しても、そのカテゴリーの商材と認識されている限り、その商品だけ女性90%、男性10%のように極端に偏ったりはしないわけです。

 このことは、ブランドが獲得できる顧客はそのブランドが属するカテゴリー、すなわち市場でほぼ決まることを意味しています。つまり、「どの市場に属するブランドと認識されるか」次第で獲得できる顧客とできない顧客が決まり、施策レベルのターゲティングで大きく変えられるものではないということです。従って、そうした縛りから脱却して新しい顧客を獲得するためには、ブランドに対して未顧客が持つ認識を変える必要があります。ここに未顧客理解におけるセグメンテーションの本来の意味が見えてきます。

セグメンテーションの本質は市場の細分化ではなく、市場の再定義

 セグメンテーションは「細分化」という訳が当てられることから、“現在の市場を分ける”というイメージが先行していますが、セグメンテーションの本質は「市場の細分化」ではなく「市場の再定義」です。

 STPのロジックを額面通りに解釈すると、「規模を犠牲にして選択と集中をすべきだ」という受け止め方になります。例えば、母集団が1000万人の市場を、A:500万人、B:300万人、C:200万人のように分けて、「Cは規模こそ小さいけれど競合が支配的ではなく自社の特徴が生かせそう。ここをターゲットにして、この人たちの嗜好や価値観に合うようにブランドをポジショニングしよう」というような考え方です。

 しかし、「未顧客理解」ではそうは考えません。市場拡大するために持つべきなのは、「ブランドをどう再解釈すれば現在の1000万人以上を狙えるか」という視点です。より多くの非購買層に1回買ってもらう、ライトユーザーにもう1回買ってもらうことがゴールですから、「市場には1000万人しかいない」「その中でシェアを拡大しなければいけない」という“縛り”をまず外す必要があります。つまり、より多くの人が顧客となるようにブランドを再構築して、総人口1億2000万人を分け直すことが、「未顧客」に対するセグメンテーションの本質です。

 細分化された規模の小さいセグメントをターゲットとして、そのセグメント内で獲得していこうとしても、すぐに獲得コストが大きくなります。ECなどでは数値になって出てくるため分かりやすいのですが、一般の流通でも目に見えにくいだけで原理は同じです。同じターゲットに対して施策を打ち続けるとリターンは減ってくるので、市場が狭いことはそれだけで不利なのです。ですので、特に未顧客の獲得や利用機会の創出においては、初手でできるだけ多くの顧客を視野に入れておくことが求められます。