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 「買わない人=未顧客」を理解する初めての教科書『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』(2022年6月、日経BP発行)。経験豊富なマーケティングサイエンティストであるコレクシアの芹澤連氏が様々なエビデンスに基づいた未顧客理解の原理原則と、日々のマーケティング実務で実践できるフレームワークを、マンガと図表で詳しく解説した書籍です。「未顧客理解」のエッセンスをお届けしている本連載。今回はSNS(交流サイト)を活用したマーケティング活動の成功がなぜ難しいのか解き明かします。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

 近年は「ファンを大事にしよう」「ロイヤルカスタマーを育成しよう」というマーケティングが盛んに行われています。しかし、未顧客(非購買層やライトユーザー)の新規獲得や、市場拡大をミッションとしている場合は注意が必要です。しばしば、「ファンを大事にしていれば新規顧客も増える」という主張を見聞きします。また、SNS(交流サイト)を「ファンが口コミで新規顧客を連れて来てくれるメディア」のように捉えている方もいます。しかしこれらの主張は、統計学(厳密には統計的因果推論)の観点から見ると、とても違和感のある主張です。

 常連客の多い会員制飲食店などであれば、「ファンが新規顧客を連れてくる」ことはあるでしょうが、一般のBtoC(消費者向け)メーカーや事業会社ではそうはなりません。筆者が所属するコレクシアでも、「ファンマーケティングや顧客育成、CRM(顧客関係管理)などは長期的に取り組まないと効果が出ないと言われ、しばらくは続けてきたが、それにしても売り上げが伸びない」といった趣旨の相談が増えています。

 実は、こうした問題の背景には「ロッサー・リーブスの誤謬(ごびゅう)」という原因があるのですが、一般的にはあまり知られていません。本記事では、なぜこのような問題が起こるのか、裏で何が起こっているのかを解きほぐしていきたいと思います。

ソーシャルメディアに対する「願望」と「事実」を混同しない

 まずソーシャルメディアの特性について考えます。現在では、SNSを通してユーザーの声がマーケターに届きやすくなりました。筆者の周りのマーケターに話を聞くと、SNSの「いいね」やフォロワー数の報告を求める経営者もいるそうです。しかし、目に留まりやすくなったからと言って、それが直ちに重要になるわけではありません。また、目に留まる部分だけが重要なわけでもありません。

 まず、ソーシャルメディアの口コミはダブルジョパディ*的な振る舞いを見せます。つまり、シェアの低いブランドは口コミの数も少なく、シェアの高いブランドになるほど口コミの数は増え、かつ内容も肯定的になる傾向があります[1]。ソーシャルメディアを通じた口コミで単純接触効果を大きくしようとしても、当然そこには競合の口コミも存在するため、リーチをどれだけ獲得できるかは普通の広告と変わらず、もともとのシェアが影響することを忘れてはいけません。爆発的なバズを意図的に何回も起こせる方法があるなら話は別かもしれませんが、少なくとも筆者はそのような方法を知りません。

*シェアの低いブランドは、顧客数も少なく購買頻度も低くなる現象

 また、ソーシャルメディアでのバズがそのまま売り上げの拡大につながるかというと、必ずしもそうではないようです。ブランドへの「いいね」やフォローの効果について、ハーバード大学の研究者たちが実施した大規模なSNSの実験では、好意を高めたり、リアルでの推奨のように友人の購入を促したりする効果は確認されませんでした[2]。友人がSNSで推奨しているからといって、自分と無関係のブランドにいきなり興味を持ったり買ったりはしないということです。ましてやそれが他人であればなおさらです。

 「消費者はファンやインフルエンサーからの情報を求めていている」という識者もいますが、それは既に興味や関心を持っている人の話です。いくら肯定的な内容だったとしても、未顧客(非購買層やライトユーザー)から見れば、知らない人が興味のない話をしているだけ、つまりただの他人の会話です。もちろん従来の広告にも同じことが言えるわけですが、同じ法則に縛られている以上、お金をかけずに新規顧客を獲得できると安易に思い込むのは危険です。