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『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP刊)
『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP刊)

 現実空間とは別の「もう一つの世界」、メタバース。「単なるバズワード」と、その可能性に目を背けてしまうのは得策ではない。新たな世界でどんなビジネスチャンスが生まれるのか。本連載では、新刊『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP)より、来たるべくメタバース時代に向けた多角的な視座を与えてくれる6人のキーパーソンインタビューをお届けする。(日経クロストレンド編集部)

 2000年代に世界的な注目を集めた「Second Life(セカンドライフ)」。「早すぎた」「失敗した」といった評価が目立つ一方で、22年現在でもサービスは継続されている。かつてのブームと現在のメタバースは何が共通しているのか、あるいは何が異なるのか。当時を詳しく知る杉山知之氏(デジタルハリウッド大学学長)と、渡邊信彦氏(Psychic VR Lab取締役COO)の対談をお届けする。(聞き手はyunoLv3、久保田 瞬)

杉山 知之(Tomoyuki Sugiyama)氏
デジタルハリウッド大学 学長/工学博士
杉山 知之(Tomoyuki Sugiyama)氏 日本大学大学院理工学研究科修了後、同大学助手となり、コンピューターシミュレーションによる建築音響設計を手掛ける。1987年渡米、MITメディア・ラボ客員研究員、国際メディア研究財団・主任研究員、日本大学短期大学専任講師を経て、94年デジタルハリウッドを設立。2004年大学院、05年大学を設立し、現在デジタルハリウッド大学学長
渡邊 信彦(Nobuhiko Watanabe)氏
Psychic VR Lab 取締役COO
渡邊 信彦(Nobuhiko Watanabe)氏 大手SIerにて金融機関のデジタル戦略を担当、2006年執行役員、2011年オープンイノベーション研究所所長を歴任、セカンドライフブームの仕掛け人としてメタバースのビジネス開発に関わる。その後、起業イグジットを経て、Psychic VR Labの設立に参画。17年2月取締役COO就任。他に事業構想大学院大学教授、先端技術オープンラボSpiral Mindパートナーなどを務める

セカンドライフの知見は現代のメタバースに生かせる

セカンドライフを知る者として、現在のメタバースに対してどういうスタンスを取り、何をしていきたいかを教えてください。

杉山知之氏(以下、杉山) 基本に立ち返って、アバター文化に注力していきたいです。今は、デジタルハリウッド大学の学生全員にアバターを持ってもらうところから始めています。それもTPOに応じて2~3種類持つようにする。そしてまずは「Zoom会議にアバターで出席する」といった軽いところから始めてもらう。

 アバターを所持して、いろんなメタバースへ行く体験を積んでいく中で、何人かはハマると思うんですよ。そうしていく中で、自然といくつかの大手メタバースが残っていって、新しい「中心」が見えてくると思います。「アバターをみんな持とうよ」というところからコツコツとやっていきたいですね。

渡邊信彦氏(以下、渡邊) 私は前回ハマったときに、特に象徴的に「これだ!」と思った出来事があります。当時、吉祥寺に住んでいて、会社の帰りにある焼鳥店によく通っていました。ただ、私はあまり飲めないほうなので、焼鳥を買って持ち帰っていました。そんなある日、セカンドライフ上にその焼鳥店の支部が作られたのです。それ以降、私が焼鳥を持ち帰ってからセカンドライフに入ると、先ほど焼鳥店にいた人たちが続々とやってくるようになりました。

 そうした生活の中で、バーチャルの焼鳥店にいた人に「(リアルの店舗に)おいでよ!」と誘ったら来てくれたり、逆にさっきまでリアルの焼鳥店にいた人たちがセカンドライフにログインしにきてくれたり……。リアルとバーチャルが融合した瞬間の感動は、非常に大きかったです。

セカンドライフ上のバーチャルBAR
セカンドライフ上のバーチャルBAR
(画像/リンデンラボ)
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 ただ、「バーチャルに来てください」と言って抵抗なく来てくれるような人だけだと、またブームは失速し、失敗すると思います。鍵となるのは「リアルの生活の中にどうやってメタバースとの接点をつくっていくか」でしょう。そのためにクリエーティブプラットフォームの「STYLY(スタイリー)」では、「リアルメタバース」という考え方を掲げています。都市とデータをつなぎ、都市の中でホログラムやXR(クロスリアリティー)グラス越しに情報などが現れれば、それこそバーチャルとリアルが本当に融合した形になるはずです。

 「ホームページなんて使わないぜ!」と言っていた人も、今やホームページを作らなければ商売ができないのと同じように、メタバースにアバターを持っていないとコミュニケーションできないという時代が来るはずです。なので、私たちは都市の中でメタバースを開いていきたいと思っています。

杉山 私は今、専門家を集めて大学のバーチャルキャンパスを作ろうとしています。バーチャルキャンパスはリアルのキャンパスとつながっていますが、だからといってリアルをそのまま再現しても仕方ない。だから「メタバースならではのキャンパス」をやりたいと考えています。そして、感覚としてはやはり、自分のアバターがどのメタバースにも遊びに行けるのが一番いいなとは思っています。

渡邊 今、各社が提供するメタバース同士がつながる「オープンメタバース」が叫ばれていますよね。セカンドライフの時代からそうした動きはありましたが、今回は社会的な動きもあります。そして、多くのメタバースと同じように空間レイヤーにも来てくれるようになれば、現実とメタバースを行ったり来たりしながら、デジタルのコンテンツで稼ぐクリエーターが生まれて、新しい価値観や社会が生まれるのではと思います。逆に、そこまでやらないとセカンドライフの時代から正直変わらないんじゃないかと。

 少し心配なのは、ユーザーにアプリをダウンロードさせたくないという理由から、WebVR・WebARに流れていることです。実現できることがWebで可能なことに限定されると、「結局ライブ鑑賞などはYouTubeで見たほうがきれいだよね」といった空気になってしまうのではないか。メタバースで実現できることの幅、それに対する期待を制限しないでほしいのです。いろいろなものを切り捨てるほどビジネスに寄っていきますが、同時に魅力も半減してしまいます。そうなってしまうと、「セカンドライフのほうが良かったよね」と言われかねません。